個人事業主として開業したものの、確定申告や日々の経理を自分でやるべきか、税理士に頼むべきか迷っている方は多いです。結論として、年商や業務の複雑さによって「自分でできる人」と「税理士に頼んだ方がいい人」の境界線は明確に存在します。この記事では、その判断基準を具体的な数字とともに解説します。
この記事の目次
年商500万円がひとつの分岐点になる
個人事業主に税理士が必要かどうかを判断する最大の基準は「年商」です。年商500万円以下であれば、クラウド会計ソフトを使って自分で申告できるケースがほとんどです。逆に、年商500万円を超えてくると取引の数や種類が増え、経理処理の負担が一気に重くなります。
年商1,000万円を超えると消費税の課税事業者になるため、所得税の申告に加えて消費税の申告も必要になります。この段階で税理士なしで乗り切るのはかなり厳しいです。(実際、消費税の申告でミスをして追徴課税を受ける個人事業主は少なくありません)
税理士なしでも問題ないのはこんな人
すべての個人事業主に税理士が必要なわけではありません。以下の条件に当てはまる方は、自分で確定申告をしても大きな問題は起きにくいです。
- 年商500万円以下で、取引先が少ない
- 経費の種類がシンプル(仕入れがない、在庫を持たない)
- クラウド会計ソフト(freee、マネーフォワードなど)を使いこなせる
- 確定申告に丸一日かけても苦にならない
- 従業員を雇っていない(源泉徴収・年末調整が不要)
たとえば、ひとりで活動しているWebライターやデザイナーで、取引先が数社、経費は通信費や消耗品が中心という方であれば、クラウド会計ソフトだけで十分対応できます。(ただし、初年度は操作に慣れるまで丸一日かかる覚悟は必要です)
税理士に頼むべき個人事業主の5つの特徴
一方で、以下に該当する場合は税理士への依頼を強くおすすめします。自分で無理にやろうとすると、結果的に損をするケースが多いです。
年商1,000万円を超えて消費税の申告が必要になった
年商1,000万円を超えると、2年後から消費税の課税事業者となります。令和6年分の個人事業者の消費税確定申告件数は212万件に上り、前年から15万件増加しています(出典 国税庁 令和6年分の確定申告状況等)。インボイス制度の導入もあり、消費税の処理は年々複雑になっています。消費税の申告を自力で正確にこなすのは、専門知識がない限り現実的ではありません。
本業が忙しく経理に時間を割けない
個人事業主の最大の資産は「自分の時間」です。経理に毎月5〜10時間、確定申告の時期にはさらに数日間を費やしている方も珍しくありません。仮に時給換算で3,000円の仕事ができる方が年間100時間を経理に使っているとすれば、それだけで30万円分の機会損失です。税理士への顧問料が月1〜2万円(年間12〜24万円)であれば、本業に集中した方が結果的に手元に残るお金は増えます。
従業員やアルバイトを雇っている
人を雇うと、毎月の源泉徴収、年末調整、社会保険の手続きなど、経理業務が一気に増えます。給与計算のミスは従業員との信頼関係にも直結するため、税理士に任せた方が安全です。特に、従業員が5人を超えると社会保険への加入義務が生じる業種もあり、手続きの煩雑さは個人で対応できるレベルを超えてきます。
複数の収入源がある
事業所得に加えて不動産収入がある、副業で別の事業をしている、株や仮想通貨の取引があるといった場合、申告内容が複雑になります。所得の種類ごとに計算方法が異なるため、自己流で処理すると控除の適用漏れや計算ミスが起きやすくなります。
青色申告の65万円控除をフル活用したい
青色申告特別控除で最大65万円の控除を受けるには、複式簿記による記帳に加えて、e-Taxでの申告または電子帳簿保存のいずれかが必要です(出典 国税庁 No.2072 青色申告特別控除)。これらの要件を満たさない場合、控除額は55万円または10万円に下がります。複式簿記に不安がある方は、税理士に記帳を任せることで確実に65万円控除を受けられます。
税理士に依頼した場合の費用目安
「税理士は高い」というイメージを持つ方が多いですが、個人事業主向けの費用は法人ほど高くありません。依頼の仕方によって費用感は大きく変わります。
| 依頼内容 | 費用の目安(年間) | 向いている人 |
|---|---|---|
| 確定申告のみ(丸投げ) | 10〜20万円 | 普段の経理は自分でやり、申告だけ頼みたい人 |
| 顧問契約(月次) | 月額1〜3万円+決算料 | 毎月の経理や税務相談も任せたい人 |
| 記帳代行のみ | 月額5,000〜1万円 | 帳簿作成だけ外注したい人 |
顧問契約の場合、月額1〜3万円に加えて決算・申告料として月額顧問料の4〜6か月分が別途かかるのが一般的です。(「月額1万円」と謳っている事務所でも、決算料が別途10万円かかるケースはよくあります。見積もり時に総額を必ず確認してください)
「確定申告だけ依頼」と「顧問契約」はどちらが得か
個人事業主が税理士に依頼する方法は大きく2つあります。結論として、年商1,000万円以下なら確定申告だけの依頼、年商1,000万円を超えたら顧問契約が費用対効果の面で合理的です。
確定申告だけの依頼は年商1,000万円以下に向いている
日々の記帳は自分でクラウド会計ソフトに入力し、申告書の作成・提出だけを税理士に依頼する方法です。費用は年間10〜20万円程度に収まります。ただし、日々の仕訳に間違いがあっても申告時まで気づけないリスクがあります。
顧問契約は「困ったときにすぐ聞ける」のが最大の価値
顧問契約の本質は、毎月の帳簿チェックや決算処理だけではありません。「この支出は経費にしていいのか」「取引先からこんな書類が届いたがどうすればいいか」といった疑問をその都度相談できることが最大の価値です。年商が上がるほど判断に迷う場面が増えるため、顧問契約の費用対効果も高くなります。
どちらの依頼方法が自分に合っているかわからない場合は、無料の税理士紹介サービスで複数の税理士から見積もりを取ってみるのが確実です。
自分でやる場合に最低限押さえるべきこと
税理士に頼まず自分で確定申告をする場合、以下の3つは最低限押さえておく必要があります。
クラウド会計ソフトの導入は必須
手書きの帳簿やExcelでの管理は、ミスの原因になるうえに時間もかかります。freee、マネーフォワード、弥生のいずれかのクラウド会計ソフトを導入してください。銀行口座やクレジットカードと連携すれば、取引の大半が自動で取り込まれます。年間1〜3万円の利用料がかかりますが、手作業の時間と比べれば十分に元が取れます。
事業用の銀行口座とクレジットカードを分ける
プライベートと事業の口座が同じだと、どの支出が経費でどの支出が私用なのかが曖昧になります。帳簿付けの手間も2〜3倍に膨れ上がります。開業したら、事業用の口座とカードを用意するのが鉄則です。クラウド会計ソフトとの連携も、口座を分けていればほぼ自動で仕訳が完了します。
領収書・レシートは月ごとに整理する
確定申告の直前に1年分の領収書を一気に整理しようとすると、漏れや紛失が発生します。月に一度、30分だけ時間を取って領収書を整理し、クラウド会計ソフトに入力する習慣をつけてください。(これができない人は、正直なところ税理士に頼んだ方がいいです)
税理士なしで確定申告すると起きやすい失敗
税理士に頼まず自力で確定申告をした結果、後から問題が発覚するケースは決して珍しくありません。
控除の適用漏れで数万〜数十万円損する
所得税には医療費控除、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除など、さまざまな控除制度があります。これらを知らずに申告すると、本来払わなくてよい税金を納めてしまいます。特に青色申告特別控除の65万円を受けるには複式簿記やe-Tax対応が必要ですが、要件を満たせず10万円控除にとどまっている方も少なくありません。差額の55万円分の控除を取り損ねると、所得税率20%の方で約11万円の差が出ます。
帳簿の不備で税務調査時に不利になる
個人事業主にも税務調査は入ります。帳簿が不十分だと、経費として計上していたものが否認され、追徴課税を受ける可能性があります。税理士が関与している申告書には「税理士署名欄」に記名があるため、税務署側の対応も変わると言われています。
消費税のインボイス対応でミスをする
2023年10月に始まったインボイス制度により、免税事業者から課税事業者に転換した個人事業主が増えています。消費税の計算方法(本則課税と簡易課税の選択)を誤ると、納税額に大きな差が出ます。たとえば、サービス業で簡易課税を選んだ場合と本則課税で計算した場合で、年間数万〜数十万円の差が生じることもあります。制度開始後の経過措置(2割特例など)も複雑なため、自己判断だけで進めるのはリスクがあります。
税理士を探す際に見るべきポイント
税理士に依頼すると決めたら、次は「どの税理士を選ぶか」が重要です。個人事業主が税理士を選ぶ際に重視すべきポイントは、専門性よりも実務面の対応力です。
レスポンスの速さを最優先にする
年商1,000万円以下の個人事業主であれば、税理士の専門分野はそこまで気にする必要はありません。それよりも、質問への返答が速いかどうかが満足度を大きく左右します。目安として、メールやチャットでの質問に対して3営業日以内に返答がある事務所を基準にしてください。
料金体系が明確かどうか確認する
「月額1万円〜」という表示だけでは、実際の総額はわかりません。見積もり段階で以下を必ず確認してください。
- 月額顧問料に含まれるサービスの範囲
- 決算・確定申告料は別途かかるか
- 記帳代行を依頼する場合の追加料金
- 税務相談の回数制限はあるか
- 消費税申告の費用は含まれるか
クラウド会計ソフトへの対応は当然として確認する
2026年時点では、ほぼすべての税理士事務所がクラウド会計ソフトに対応しています。クラウド会計対応かどうかはもう差別化ポイントにはなりません。ただし、特定のソフトしか対応していない事務所もあるため、自分が使っているソフト(freee、マネーフォワード、弥生など)に対応しているかは事前に確認しておくと安心です。
個人事業主から法人化を検討する段階では税理士は必須
年商が伸びてきて法人化(法人成り)を検討する段階になったら、税理士のサポートは事実上必須です。法人化のタイミング、届出書類の作成、役員報酬の設定など、判断を誤ると数十万〜数百万円単位で損をする可能性があります。
一般的に、個人事業主としての所得(売上から経費を引いた金額)が年間800〜1,000万円を超えてきたあたりが法人化の検討ラインとされています。法人化すると法人税・法人住民税・社会保険料の計算が加わり、経理の難易度は個人事業主時代とは比較にならないほど上がります。この段階では税理士に相談しながら、法人化すべきかどうか、するならいつがベストかを判断してください。
なお、法人化の前段階として税理士と顧問契約を結んでおくと、事業の数字を把握した上で最適なタイミングを提案してもらえます。法人化してから慌てて税理士を探すよりも、個人事業主のうちから関係を築いておく方がスムーズです。
税理士への依頼費用が気になる方は個人事業主が税理士に払う費用の相場で詳しく解説しています。税理士に依頼するタイミングの目安はフリーランスが税理士をつけるべきタイミングも参考にしてください。
最後に
個人事業主に税理士が必要かどうかは、「年商」「取引の複雑さ」「自分で経理をする時間と意欲があるか」の3つで判断できます。年商500万円以下でシンプルな事業であれば自分でも対応可能ですが、年商が上がるにつれて税理士に任せた方が結果的に得になるケースが増えていきます。
全国には約8万人の税理士が登録しており(出典 日本税理士会連合会 税理士登録者数)、個人事業主向けに手頃な価格で対応してくれる税理士も数多くいます。「税理士は高い」という思い込みで損をしないよう、まずは費用感を確認するところから始めてみてください。
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