税理士と顧問契約を結ぶ際、契約書の内容をきちんと確認していますか。顧問料や業務範囲があいまいなまま契約してしまい、あとから「思っていたサービスと違う」とトラブルになるケースは少なくありません。この記事では、税理士との顧問契約書で必ずチェックすべきポイントと、契約前に確認しておくべき注意点を解説します。
この記事の目次
顧問契約書がない税理士との契約は避けるべき
税理士との顧問契約では、書面で契約書を取り交わすのが基本です。日本税理士会連合会も、税理士が業務を受託する際には契約書を作成することを推奨しています。にもかかわらず、口頭のやり取りだけで業務を進めている税理士は一定数存在します。
契約書がないと、業務範囲や報酬額、解約条件などが明確にならず、双方の認識がズレたときに根拠となるものがありません。「長年の付き合いだから大丈夫」という考えは危険です。実際にトラブルが発生した場合、契約書がなければ交渉すら困難になります。
これから税理士と顧問契約を結ぶ方はもちろん、すでに契約しているが契約書を取り交わしていない場合は、改めて書面での締結を依頼してください。
契約書に記載すべき業務範囲は具体的に明記する
顧問契約のトラブルで最も多いのが「業務範囲のあいまいさ」です。税理士の業務は、税理士法第2条で「税務代理」「税務書類の作成」「税務相談」の3つに大別されます(出典 国税庁 税理士の業務)。しかし、顧問契約の実務ではこの3つだけでは不十分です。
具体的に確認すべき業務範囲は以下の通りです。
| 業務項目 | 確認すべきポイント |
|---|---|
| 記帳代行 | 顧問料に含まれるか、別料金か。仕訳数の上限はあるか |
| 月次試算表の作成 | 毎月作成されるか、依頼しないと出てこないか |
| 決算・申告書作成 | 顧問料に含まれるか、決算料として別途発生するか |
| 年末調整・法定調書 | 対応してもらえるか、別料金か |
| 税務調査の立ち会い | 顧問料に含まれるか、日当が別途かかるか |
| 経営相談・融資支援 | 対応範囲に含まれるか、別契約か |
(「顧問料月額1万円」と言われて契約したら、記帳代行も決算申告も全部別料金だった、というケースは本当に多いです)
記帳代行と決算料は顧問料と別料金のケースが大半
多くの税理士事務所では、顧問料はあくまで「月々の税務相談や質問対応」の費用であり、記帳代行や決算申告は別料金として設定されています。月額顧問料1〜3万円に加え、記帳代行が月5,000〜1万円、決算料が月額顧問料の4〜6か月分というのが一般的な相場です。
契約書には「顧問料に含まれる業務」と「別料金が発生する業務」を明確に分けて記載してもらうことが重要です。見積書と契約書の内容に相違がないかも合わせて確認してください。
税務調査の立ち会い費用は事前に確認しておく
税務調査が入った場合、税理士に立ち会ってもらうのが一般的です。しかし、この立ち会い費用は顧問料とは別に日当として請求されるケースが多く、1日あたり3〜5万円が相場です。
税務調査は毎年あるものではありませんが、いざ調査が入ったときに「立ち会い費用は契約に含まれていません」と言われると、慌てることになります。契約時に立ち会い費用の取り決めを確認しておきましょう。
報酬の金額・支払い条件は細部まで確認する
顧問料の金額だけを見て契約するのは不十分です。支払い条件や値上げのルールなど、お金に関する取り決めは細部まで確認してください。
毎月の報酬額と決算料の総額で年間コストを把握する
顧問料は月額で提示されることがほとんどですが、年間の総コストで考えるべきです。たとえば月額顧問料2万円でも、決算料が別途10万円、年末調整が3万円なら、年間の総額は37万円になります。
| 費用項目 | 金額の目安(個人事業主の場合) |
|---|---|
| 月額顧問料 | 月1〜3万円(年間12〜36万円) |
| 決算・確定申告料 | 5〜15万円(年1回) |
| 記帳代行 | 月5,000〜1万円(依頼する場合) |
| 年末調整 | 基本料1〜3万円+1人あたり3,000〜5,000円 |
| 年間総額の目安 | 25〜60万円程度 |
契約書に記載された報酬額をもとに、年間の総額を自分で計算してみてください。月額だけ見ると安く感じても、年間で見ると想定外の金額になることがあります。
報酬の改定ルールも契約書に盛り込む
事業規模の拡大に伴い、顧問料が見直されることはよくあります。問題は、その値上げのタイミングや基準があいまいなケースです。
契約書に「年商が一定額を超えた場合は報酬を見直す」などの条項があるか確認してください。ルールが明記されていれば、突然の値上げ通告で困ることはありません。(逆に、契約書に改定ルールの記載がなく、ある日いきなり「来月から顧問料を上げます」と言われるケースもあります)
契約期間と解約条件は最も見落とされやすいポイント
契約期間や解約条件は、契約時には気にしない方が多いですが、税理士を変更したいときに大きな障壁になります。
契約期間の自動更新条項を確認する
顧問契約の多くは1年間の契約で、自動更新が設定されています。自動更新自体は珍しくありませんが、問題は「解約の申し出期限」です。
- 契約期間は1年か、それ以上か
- 自動更新ありの場合、更新を止めるための通知期限はいつか(1か月前、3か月前など)
- 中途解約は可能か、違約金は発生するか
- 契約期間の縛り(最低契約期間)はないか
たとえば「解約する場合は3か月前までに書面で通知すること」という条項があると、解約を申し出てから実際に契約が終了するまで3か月分の顧問料が発生します。解約の通知期限は、契約前に必ず確認すべき項目です。
税理士を変更する際の引き継ぎについても取り決めておく
税理士を変更する場合、前の税理士から新しい税理士へ帳簿や書類の引き継ぎが必要です。この引き継ぎがスムーズに進まないと、決算や申告に支障が出ます。
契約書に以下の内容が含まれているか確認してください。
- 契約終了時に預けていた書類やデータを返却してもらえるか
- 会計データ(仕訳データ)の引き渡し方法と期限
- 引き継ぎ対応に追加費用が発生するか
(過去の事例として、解約を伝えたら帳簿の返却を遅らせて嫌がらせをする税理士も残念ながら存在します。こうしたリスクを防ぐためにも、契約書に引き継ぎの取り決めを明記しておくことが大切です)
損害賠償と責任範囲の条項は読み飛ばさない
契約書の中で最も読み飛ばされやすいのが、損害賠償に関する条項です。しかし、税理士のミスによって追徴課税や延滞税が発生した場合に、誰がどこまで責任を負うのかは極めて重要なポイントです。
税理士のミスによる損害は賠償請求できるのが原則
税理士が申告業務でミスをした場合、民法上の債務不履行として損害賠償請求が可能です。多くの税理士は「税理士職業賠償責任保険」に加入しており、この保険でカバーされるケースが大半です。
ただし、契約書に賠償額の上限が設定されていることがあります。たとえば「損害賠償の上限は、過去1年間に受領した報酬額を限度とする」といった条項です。この条項自体は業界の慣行として一般的ですが、内容を理解した上で合意することが大切です。
責任の範囲が不当に限定されていないか確認する
注意が必要なのは、税理士側の責任を過度に限定する条項です。
- 「いかなる場合も損害賠償責任を負わない」という免責条項がないか
- 依頼者側の申告義務(資料提供義務)が過度に重くないか
- 税理士のミスなのに依頼者の責任とされる範囲が広すぎないか
損害賠償の条項は「万が一のとき」のための条項ですが、万が一のことが起きたときに最も効力を発揮する条項です。面倒でも必ず読み込んでください。
税務代理権限証書の提出範囲を明確にする
税理士と顧問契約を結ぶと、通常は「税務代理権限証書」を税務署に提出します。これは税理士法第30条に基づく書面で、税理士が依頼者に代わって税務署とやり取りする権限を証明するものです(出典 国税庁 税務代理の権限の明示)。
この証書に記載される税目(所得税、法人税、消費税など)が、実際に依頼したい業務範囲と一致しているか確認してください。たとえば、消費税の申告も依頼しているのに税務代理権限証書に消費税が含まれていなければ、消費税に関する税務調査の通知が直接本人に届くことになります。
書面添付制度に対応しているかで税務調査のリスクが変わる
税理士法第33条の2に基づく「書面添付制度」は、税理士が申告書の作成過程でどのように計算・判断したかを書面にまとめ、申告書に添付する制度です(出典 日本税理士会連合会 書面添付制度)。
この制度を利用している場合、税務調査の前に税理士への「意見聴取」が行われます。この意見聴取の段階で疑問点が解消されれば、実地調査が省略される可能性があります。
すべての税理士がこの制度を積極的に活用しているわけではありません。顧問契約を結ぶ際に、書面添付制度に対応してもらえるかどうかを確認しておくと、税務調査への備えとして有効です。(正直なところ、書面添付は税理士にとって手間がかかる作業なので、対応していない事務所も多いです)
守秘義務と個人情報の取り扱いも確認しておく
税理士には税理士法第38条に基づく守秘義務があり、業務上知り得た秘密を正当な理由なく他に漏らしてはならないと定められています。この守秘義務は契約終了後も継続します。
ただし、契約書にも守秘義務条項を明記しておくことで、より具体的な取り決めが可能になります。特に以下の点を確認してください。
- 業務上知り得た情報の取り扱い範囲(税理士事務所の従業員や外注先への共有範囲)
- マイナンバーなど特定個人情報の管理方法
- 契約終了後のデータ消去・返却の手順
近年はクラウド会計ソフトの普及により、税理士がオンラインで会計データにアクセスするケースが増えています。契約終了時にアクセス権限を確実に解除する手順も、契約書に盛り込んでおくと安心です。
顧問契約前に複数の税理士から見積もりを取る
契約書の内容をチェックする以前に、そもそも1人の税理士としか話をしていないケースが多いです。税理士の顧問料やサービス内容は事務所によって大きく異なるため、最低でも2〜3人の税理士から見積もりを取って比較することが重要です。
複数の税理士を比較することで、以下の判断が可能になります。
- 顧問料の金額が適正かどうか(相場と比較できる)
- 業務範囲がどこまで含まれるか(事務所ごとの違いがわかる)
- 契約条件が標準的かどうか(不当な条項に気付ける)
- 税理士との相性(話しやすさ、レスポンスの早さ)
自分で複数の税理士にコンタクトを取るのが手間であれば、税理士紹介サービスを利用するのが効率的です。希望の予算や業種を伝えるだけで、条件に合った税理士を複数紹介してもらえます。
契約後にチェックすべきポイントも押さえておく
契約書を交わしたら終わりではありません。契約後の実務の中でも、定期的に確認すべき点があります。
面談や報告の頻度が契約通りに実施されているか
契約書に「月1回の面談」「四半期ごとの報告」と記載されているにもかかわらず、実際にはほとんど連絡がないケースがあります。顧問料を支払っているのに何もしてもらえていないと感じたら、契約書の内容を改めて確認し、税理士に履行を求めてください。
(顧問契約を結んでいるのに年に1回の決算時しか連絡がない、という不満は編集部にも多く寄せられます。それなら決算だけのスポット契約に切り替えた方が費用対効果は高いです)
契約内容の見直しは年1回行うのが理想
事業規模の変化や経営環境の変化に合わせて、契約内容も見直す必要があります。売上が伸びて従業員を雇い始めたら年末調整や給与計算の対応が必要になりますし、消費税の課税事業者になれば消費税の申告業務も加わります。
年に1回、決算が終わったタイミングで税理士と契約内容を確認する場を設けると、業務範囲や報酬額のミスマッチを防げます。
最後に
税理士との顧問契約は、業務範囲、報酬、契約期間、解約条件、損害賠償の5つのポイントを契約書で明確にしておくことがトラブル防止の基本です。口頭での約束や「業界の慣習」に頼るのではなく、書面で合意内容を残すことが自分を守る手段になります。
2026年2月末時点で、全国に約8万2,000人の税理士が登録されています(出典 日本税理士会連合会 税理士登録者数)。選択肢は豊富にありますので、契約条件に納得できない場合は他の税理士を検討することも一つの方法です。
税理士選びで迷っている方は、税理士ドットコムの無料紹介サービスを活用してみてください。希望条件に合った税理士を無料で紹介してもらえます。










