個人事業主から法人化(法人成り)を検討する段階で、税理士に相談すべきかどうか迷っている方は多いです。結論として、法人成りは税理士に相談してから進めるべきです。法人設立の前後には税務届出や会計処理の切り替えなど、個人事業とは比較にならない手続きが発生します。この記事では、法人成りで税理士が必要になる具体的な理由と、依頼できる内容・費用感を解説します。
この記事の目次
法人成りは「設立前」に税理士へ相談すべき
法人成りの相談は、法人を設立してからでは遅いです。設立前の段階で税理士に相談することで、最適な設立時期や資本金の設定、届出のスケジュールを事前に整理できます。
法人設立後に税理士を探し始める方もいますが、設立直後は届出書類の提出期限が立て続けに発生します。たとえば、法人設立届出書は設立日から2か月以内、青色申告承認申請書は設立日から3か月以内(または最初の事業年度終了日のいずれか早い方)に提出が必要です(出典 国税庁 No.5100 新設法人の届出書類)。これらの期限を過ぎると、青色申告の特典が初年度から使えないといった不利益が生じます。
設立前に相談しておけば、届出漏れや不利な選択を防げます。(設立後に慌てて税理士を探す方は、毎年一定数います)
法人成りの判断自体を税理士に任せるのが合理的
「年商がいくらになったら法人化すべきか」という問いに対して、ネット上には「売上1,000万円を超えたら」「利益が500万円を超えたら」など、さまざまな基準が出回っています。しかし、法人化の損益分岐点は事業の内容、経費構造、家族構成、社会保険の負担額によって大きく変わります。
一般的な目安として、個人事業の所得(売上から経費を引いた金額)が年間600〜800万円を超えたあたりから、法人化による税負担の軽減効果が出始めます。ただし、法人化すると社会保険料の会社負担分(従業員の社会保険料の約半額)が新たに発生するため、単純に税率だけで判断すると失敗します。
この判断は税理士のシミュレーションなしに正確に行うのは難しいです。個人のまま続けた場合と法人化した場合の税額・社会保険料を具体的に比較してもらうことで、法人成りすべきかどうかが明確になります。
実際のシミュレーションでは、所得税・住民税・事業税・法人税・社会保険料を総合的に比較します。たとえば、個人事業で所得700万円の場合、所得税と住民税だけで年間約120〜140万円程度になりますが、法人化して役員報酬を適切に設定すれば、法人税と個人の所得税を合わせた総額が下がるケースがあります。ただし、社会保険料の会社負担分を含めると逆転する場合もあるため、「法人化=必ず得」ではありません。(この計算を自分でやるのは正直かなり大変です)
法人成り前後で税理士に依頼できる内容は幅広い
設立前の相談で決めるべきことが多い
法人設立前に税理士と相談して決めるべき項目は、以下のとおりです。
| 相談項目 | 内容 |
|---|---|
| 法人化の損益シミュレーション | 個人のままと法人化した場合の税額・社会保険料を比較 |
| 設立時期の決定 | 決算月や消費税の免税期間を考慮して最適な設立日を選ぶ |
| 資本金の設定 | 1,000万円未満にすることで消費税の免税メリットを得られるかなど |
| 役員報酬の設定 | 法人税と所得税のバランスを考慮した報酬額の決定 |
| 決算月の選定 | 繁忙期を避けた決算月の設定 |
これらの判断は、設立後に変更しようとすると手間やコストがかかります。(資本金は登記変更が必要ですし、役員報酬は原則として期中に変更できません)
設立時の届出手続きを代行してもらえる
法人設立後には、税務署・都道府県税事務所・市区町村への届出が必要です。主な届出書類は以下のとおりです。
- 法人設立届出書(税務署へ設立から2か月以内)
- 青色申告承認申請書(設立から3か月以内または事業年度終了日のいずれか早い方)
- 給与支払事務所等の開設届出書
- 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
- 個人事業の廃業届出書(個人事業の廃業から1か月以内)
これらの届出は税理士に代行を依頼できます。特に青色申告承認申請書は期限を過ぎると初年度の青色申告ができなくなるため、提出漏れは大きな損失につながります(出典 国税庁 C1-19 青色申告書の承認の申請)。
個人事業の廃業手続きも忘れてはいけない
法人成りすると、個人事業の廃業届出書の提出が必要です(出典 国税庁 A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続)。消費税の課税事業者だった場合は、事業廃止届出書の提出も必要になります。
また、個人事業で使っていた資産(車両、備品など)を法人に引き継ぐ場合、その処理方法(売却・賃貸・現物出資)によって税務上の取り扱いが変わります。売却の場合は時価で取引する必要があり、簿価との差額に対して譲渡所得が発生する可能性があります。賃貸の場合は法人から個人に賃借料が支払われる形になり、個人の不動産所得として申告が必要です。
どの方法が有利かは資産の種類や金額によって異なるため、税理士に相談して判断するのが確実です。(特に車両や不動産を法人に引き継ぐ場合、処理を間違えると思わぬ税金が発生します)
法人成り後の税務は個人事業より格段に複雑になる
法人化すると、個人事業のときには不要だった手続きや義務が大幅に増えます。
| 項目 | 個人事業 | 法人 |
|---|---|---|
| 確定申告 | 所得税の確定申告(比較的シンプル) | 法人税・法人住民税・法人事業税の申告(複雑) |
| 会計処理 | 単式簿記でも可 | 複式簿記が必須 |
| 社会保険 | 国民健康保険・国民年金 | 健康保険・厚生年金(加入義務あり) |
| 役員報酬 | 概念なし | 定期同額給与のルールあり |
| 決算書類 | 収支内訳書or青色申告決算書 | 貸借対照表・損益計算書・勘定科目内訳明細書など |
特に法人税の申告書は、個人の確定申告書とは比較にならないほど複雑です。法人税の申告を自力で行っている中小企業はほとんどありません。会計ソフトを使っていても、別表の作成や税務調整は専門知識がないと対応できないのが実情です。
個人事業の確定申告は、クラウド会計ソフトを使えば自力で完了できるレベルですが、法人税の申告書は別表だけで数十種類あり、それぞれの別表が相互に連動しています。さらに、法人住民税と法人事業税は都道府県・市区町村にそれぞれ別途申告が必要です。この手間を考えると、法人化した時点で税理士との顧問契約はほぼ必須と考えてください。
法人の顧問税理士の費用相場は月額2〜5万円
小規模法人なら月額2〜3万円で依頼できる
法人成りしたばかりの小規模法人(年商1,000万円〜3,000万円程度)であれば、顧問税理士の費用は月額2〜3万円が相場です。これに加えて、決算申告料として年1回10〜20万円程度がかかるのが一般的です。
| 年商規模 | 月額顧問料の目安 | 決算申告料の目安 |
|---|---|---|
| 1,000万円未満 | 月額1.5〜2.5万円 | 10〜15万円 |
| 1,000万〜3,000万円 | 月額2〜3万円 | 15〜20万円 |
| 3,000万〜5,000万円 | 月額3〜4万円 | 20〜25万円 |
| 5,000万円〜1億円 | 月額4〜5万円 | 25〜30万円 |
年間のトータルコストは、小規模法人で40〜60万円程度になります。(個人事業時代に比べると費用は上がりますが、法人税申告の複雑さを考えると妥当な金額です)
記帳代行を自分で行えばコストを抑えられる
顧問料のうち、記帳代行(日々の取引を会計ソフトに入力する作業)の費用が月額5,000〜1万円程度を占めています。クラウド会計ソフト(freee、マネーフォワードなど)を使って自分で記帳すれば、その分の費用を抑えられます。
ただし、法人の記帳は個人事業のときよりも仕訳のルールが複雑です。役員報酬の処理や社会保険料の仕訳など、法人特有の処理が必要になるため、最初の数か月は税理士に記帳の方法を教えてもらいながら進めるのが現実的です。
法人成りで税理士に相談しないと起きるリスク
届出の期限切れで初年度から不利になる
前述のとおり、法人設立後は複数の届出書類に提出期限があります。青色申告承認申請書の提出が遅れると、初年度は白色申告になります。青色申告の法人は欠損金(赤字)を最大10年間繰り越せますが、白色申告ではこの繰越控除が使えません。法人成り初年度は設立費用などで赤字になることも多く、この繰越ができないと翌年度以降の税負担が増えます。
役員報酬の設定ミスで余計な税金がかかる
法人の役員報酬は「定期同額給与」のルールがあり、原則として事業年度の途中で金額を変更できません。設定額が高すぎると法人に利益が残らず、低すぎると個人の所得税が抑えられても法人税が膨らみます。
法人税と所得税のバランスを考慮した最適な報酬額の設定は、税理士のシミュレーションがないと難しいです。(「なんとなく月額30万円」で設定して、あとから後悔するケースは珍しくありません)
消費税の免税メリットを取りこぼす可能性がある
資本金1,000万円未満の法人は、設立から最大2年間、消費税が免税になる可能性があります。しかし、資本金の設定や特定期間(設立後6か月間)の課税売上高・給与支払額によっては、2期目から課税事業者になるケースもあります。
また、インボイス制度の導入により、免税事業者のままだと取引先からインボイスの発行を求められた際に対応できません。免税のメリットとインボイス対応のどちらを優先すべきかは、取引先の構成によって判断が分かれます。この判断は設立前に税理士と確認しておくべきポイントです。
法人成りに強い税理士を選ぶポイント
法人成りの実績がある税理士を選ぶ
税理士にも得意分野があります。法人成りの案件を多く扱っている税理士であれば、個人事業の資産引き継ぎや届出のスケジュール管理に慣れているため、スムーズに進みます。
相談時に「法人成りの案件は年間どのくらい対応していますか」と聞くだけでも、経験値の目安になります。
設立前の相談に無料で対応してくれるかを確認する
多くの税理士事務所では、法人成りの初回相談を無料で受け付けています。設立前の相談段階では顧問契約前ですので、費用が発生するかどうかを事前に確認しておきましょう。
複数の税理士に相談して比較したい場合は、税理士紹介サービスを利用すると、法人成りに対応できる税理士を効率的に探せます。希望の予算や業種を伝えれば、条件に合った税理士を複数紹介してもらえます。
レスポンスの速さを重視する
法人成りの前後は、届出の期限や設立登記のタイミングなど、時間に追われる場面が多いです。質問してから返答までに1週間以上かかる税理士では、設立スケジュールに支障が出ます。
問い合わせに対して3営業日以内に返答がある税理士を基準にしてください。初回相談時のレスポンスの速さが、契約後の対応品質をそのまま反映していることが多いです。
法人成り後も税理士との顧問契約を続けるべき理由
法人成りの手続きだけ税理士に依頼して、その後は自分でやろうと考える方もいます。しかし、法人の税務を自力で処理し続けるのは現実的ではありません。
法人は毎年、法人税・法人住民税・法人事業税の申告が必要です。中小法人の法人税率は、所得800万円以下の部分が15%、800万円超の部分が23.2%と、個人の所得税とは税率構造が異なります(出典 国税庁 中小企業者等の法人税率の特例)。申告書の別表作成や税務調整は専門知識が必須であり、毎年の税制改正にも対応しなければなりません。
また、法人は税務調査の対象になる確率が個人事業より高いです。顧問税理士がいれば、日々の記帳が適正に行われているかチェックされるため、調査時にも慌てずに対応できます。(顧問税理士がいない法人は、税務署から見ると「申告内容に問題があるかもしれない」と判断される傾向があります)
最後に
法人成りは、個人事業の延長ではなく「新しい事業体の立ち上げ」です。設立前の損益シミュレーション、設立時の届出手続き、設立後の法人税申告まで、税理士のサポートが必要になる場面は多岐にわたります。特に設立前の相談は、法人化すべきかどうかの判断自体を左右するため、早めに動くことが重要です。
法人成りに対応できる税理士を探している方は、税理士ドットコムの無料紹介サービスを活用してみてください。希望条件に合った税理士を無料で紹介してもらえます。










