契約中の税理士から顧問料の値上げを打診されると、多くの経営者が「払い続けるべきか、交渉すべきか、いっそ乗り換えるべきか」で迷います。結論から言えば、まず確認すべきは値上げの理由と現在の料金が相場に対して適正かどうかです。理由に納得でき、料金も相場の範囲内であれば、値上げを受け入れる判断は十分に合理的です。一方、理由が曖昧だったり、もともと相場より割高だったりする場合は、交渉や乗り換えを検討する余地があります。この記事では、値上げを打診された読者が冷静に判断できるよう、税理士側が値上げを求める理由、顧問料の相場、交渉のしかた、乗り換えの判断基準と手順までを順に解説します。
この記事の目次
税理士が顧問料の値上げを求める主な理由は業務量増加と制度対応と人件費上昇
税理士からの値上げ打診は、必ずしも「足元を見られている」わけではありません。むしろ近年は、正当な理由による値上げが増えています。値上げの背景を理解しておくと、その打診が妥当なものか、それとも交渉余地があるものかを見極めやすくなります。
顧問先の事業成長による業務量増加は正当な値上げ理由
契約当初は売上が小さく仕訳数も少なかった事業が、数年で成長して取引が増えると、税理士側の作業量も比例して増えます。記帳のチェック件数、消費税の計算、決算の複雑さはいずれも事業規模に連動します。売上が契約時の2倍3倍になっているのに顧問料が据え置きのままだったというケースは、むしろ税理士側が長く我慢していたと考えるべき場面もあります。(自分の事業が当初より明らかに大きくなっているなら、この理由は素直に受け入れて問題ありません)
インボイスや電子帳簿保存法への対応は業界全体の値上げ要因
近年は税務関連の制度改正が相次ぎ、税理士の業務負担が増えています。適格請求書等保存方式(インボイス制度)への対応では、顧問先の登録状況の確認や請求書の様式チェックなど、従来になかった作業が発生しました(出典 国税庁 特集 インボイス制度)。
また、電子帳簿保存法に基づく電子取引データの保存対応も、顧問先ごとに運用方法を整える手間がかかります(出典 国税庁 電子帳簿保存法関係)。こうした制度対応は特定の事務所だけの事情ではなく業界全体に共通するため、この理由による値上げは一定の正当性があります。(制度対応分の値上げを断っても、他の事務所でも同様の負担は発生しています)
人件費や最低賃金の上昇によるコスト増は交渉余地が小さい
税理士事務所も人を雇って運営している以上、スタッフの人件費上昇や最低賃金の引き上げは経営コストに直結します。家賃や会計ソフトの利用料などの固定費も上がっています。こうした事務所側の運営コスト上昇を理由とする値上げは、社会全体の物価上昇と連動しているため、頭ごなしに否定しにくい性質のものです。
一方で、明確な理由の説明がないまま「来期から値上げします」とだけ通知されるケースもあります。業務量も制度対応も特に変わっていないのに値上げを求められた場合は、後述の交渉で理由と内訳をきちんと確認する価値があります。
顧問料の相場を確認すれば値上げが適正かどうか判断できる
値上げが妥当かを判断する最も確実な方法は、値上げ後の金額が相場の範囲に収まっているかを確認することです。もともと相場より安かった料金が相場並みに是正されるだけなら、その値上げは合理的です。逆に、すでに相場より高かった料金がさらに上がるなら、交渉や乗り換えを本格的に考えるべきです。
個人事業主と法人で月額相場は異なる
顧問料の相場は、事業形態と事業規模によって変わります。一般的な月額顧問料の目安は次の通りです。なお、これらは記帳代行や決算料を含まない顧問料単体の目安であり、契約内容によって変動します。
| 事業形態と年商 | 月額顧問料の目安 | 決算料の目安(年1回) |
|---|---|---|
| 個人事業主 年商500万円以下 | 月額1〜1.5万円 | 4〜10万円 |
| 個人事業主 年商500万〜1,000万円 | 月額1.5〜2.5万円 | 5〜12万円 |
| 法人 年商1,000万円以下 | 月額2〜3万円 | 10〜15万円 |
| 法人 年商1,000万〜3,000万円 | 月額2.5〜3.5万円 | 12〜20万円 |
| 法人 年商3,000万〜5,000万円 | 月額3〜5万円 | 15〜25万円 |
値上げ後の金額がこの幅の中に収まっているかをまず確認してください。たとえば法人で年商2,000万円の事業者が月額2万円から2.8万円への値上げを打診された場合、値上げ後も相場の範囲内なので、業務量や制度対応を理由とする値上げであれば妥当と考えられます。(むしろ月額2万円のままだった方が相場より安かった可能性が高いです)
面談頻度やサービス範囲によって適正額は上下する
同じ年商でも、毎月訪問してくれる税理士と年に数回しか接点のない税理士では、適正な顧問料は変わります。月次で試算表を作成し経営アドバイスまで行う契約なら相場の上限寄り、申告だけを淡々と代行する契約なら下限寄りが目安です。値上げの妥当性を判断するときは、金額だけでなく「その金額に何が含まれているか」をセットで見る必要があります。
自分の顧問料が相場に対して高いのか安いのか不安な場合は、税理士紹介サービスで他の税理士の見積もりを取って比較すると、自分の料金水準を客観的に把握できます。値上げを受け入れるにしても交渉するにしても、比較の基準があると判断がぶれません。
値上げを打診されたら理由と内訳を確認してから交渉する
値上げの連絡を受けてすぐに「わかりました」と承諾する必要も、感情的に拒否する必要もありません。交渉とは値切ることではなく、料金とサービスの内容をすり合わせる作業です。冷静に進めれば、税理士との関係を壊さずに着地点を見つけられます。
まず値上げの理由と金額の内訳を具体的に聞く
最初にすべきは、値上げの根拠を具体的に確認することです。「業務量が増えたため」という説明であれば、どの業務がどれだけ増えたのかを尋ねます。制度対応が理由なら、どの制度への対応にどの程度の工数がかかっているのかを確認します。理由を明確に説明できる税理士であれば値上げの妥当性は高く、説明が曖昧で言葉に詰まるようであれば交渉の余地があります。理由を聞くこと自体は失礼な行為ではなく、むしろ正当な確認です。
業務範囲を見直して不要なサービスを外す
値上げ額をそのまま受け入れる前に、現在の契約に含まれるサービスのうち、実際には使っていないものがないかを確認します。たとえば月次訪問を四半期に1回へ減らす、使っていない給与計算の代行を外すといった見直しで、値上げ分を相殺できる場合があります。
- 月次の訪問頻度を実態に合わせて調整できないか
- 使っていない付帯サービス(給与計算、年末調整など)を外せないか
- 連絡手段をメールやチャット中心にして対応コストを下げられないか
「値上げは受け入れるが、その代わりこの業務は外したい」という提案は、税理士側も受け入れやすい現実的な交渉です。
記帳を自社化すれば顧問料を下げられる余地がある
顧問料に記帳代行が含まれている場合、その記帳を自社で行うことで料金を下げられる可能性があります。クラウド会計ソフトを使えば、日々の取引入力は経理の専門知識がなくても進められます。記帳代行分の費用は月額5,000〜1万円程度が目安なので、自社化できればその分の交渉材料になります。(ただし、入力ミスが多いと税理士側のチェック工数が増えて結局割高になることもあるため、自社化は現実的に回せる体制があるかどうかで判断してください)
交渉の際に他の事務所の安い見積もりを引き合いに出して値下げを迫る方法もありますが、関係が悪化するリスクがあります。あくまで自分の事業に必要なサービス範囲を基準に話を進める方が、長期的には良い関係を保てます。
乗り換えを検討すべきなのは値上げ後も割高で対応にも不満があるケース
交渉しても折り合わない場合や、そもそも値上げ前から不満があった場合は、税理士の乗り換え(変更)を検討します。ただし乗り換えには手間とコストがかかるため、感情的な勢いで決めるのは避けるべきです。判断基準とタイミング、注意点を押さえておきましょう。
乗り換えを検討すべきケースと、思いとどまるべきケース
乗り換えが合理的なのは、料金とサービスのバランスが明確に崩れている場合です。一方、値上げ後も相場の範囲内でサービスにも不満がないなら、乗り換えのコストの方が大きくなりがちです。
| 乗り換えを検討すべきケース | 思いとどまるべきケース |
|---|---|
| 値上げ後の料金が相場より明らかに高い | 値上げ後も相場の範囲内に収まっている |
| 連絡しても返答が遅く相談しづらい | レスポンスが速く相談しやすい |
| 値上げの理由を説明してもらえない | 値上げの理由に納得できる |
| 事業内容や業種への理解が乏しい | 自社の事業をよく理解している |
編集部の見解として、料金よりもレスポンスの速さや相談のしやすさに不満がある場合は、乗り換えの価値が高いです。逆に、多少割高でも信頼関係が築けている税理士は、安易に変えると後悔することがあります。
乗り換えのタイミングは決算後が最適
税理士を変えるなら、決算と申告が終わった直後がもっとも引き継ぎがスムーズです。期の途中で変更すると、前任の税理士が把握していた処理方針を新しい税理士が一から把握し直す必要があり、二重の手間とコストが発生します。決算が終わったタイミングなら会計帳簿が一区切りついているため、引き継ぎの負担が最小限で済みます。
引継ぎ資料の確保と二重コストに注意する
乗り換えで最も注意すべきは、過去の会計データや申告書類を確実に受け取ることです。総勘定元帳、決算書、申告書の控え、固定資産台帳などは、新しい税理士が業務を引き継ぐために不可欠です。また、解約のタイミングによっては前任と新任の両方に料金が発生する期間が生じることがあるため、契約の切り替え時期を慎重に調整する必要があります。
顧問契約には「解約は3か月前までに申し出ること」といった予告期間が定められている場合があります。契約書を確認せずに乗り換えを進めると、解約予告期間中の顧問料を二重に支払うことになりかねません。
税理士の乗り換えは現契約の確認から解約までの順で進める
乗り換えを決めたら、トラブルを避けるために順序を守って進めます。特に重要なのは、新しい税理士を確保してから現在の契約を解約することです。逆の順序で進めると、税務処理の空白期間ができてしまいます。
現在の契約内容と解約条件を確認する
最初に現在の顧問契約書を読み返し、解約の予告期間、違約金の有無、契約期間の縛りを確認します。多くの契約では解約の1〜3か月前までの申し出が求められます。この確認を飛ばすと、後の解約手続きで思わぬ費用が発生します。
新しい税理士を選定して見積もりを取る
次に、新しい税理士の候補を複数挙げて見積もりを取ります。このときに前述の相場表を基準にすると、提示された料金が妥当かを判断しやすくなります。料金だけでなく、自社の業種への理解度やレスポンスの速さも確認しておくと、同じ理由でまた乗り換えるという事態を避けられます。
自分で複数の税理士を探して比較するのが大変な場合は、税理士紹介サービスで希望条件に合う税理士を紹介してもらうと、相場感に合った候補を効率的に比較できます。
引継ぎ資料を受け取り解約手続きを進める
新しい税理士が決まったら、前任の税理士から会計データと書類一式を受け取ります。受け取るべき主な資料は次の通りです。
- 過去数年分の決算書と申告書の控え
- 総勘定元帳と仕訳帳のデータ
- 固定資産台帳
- 会計ソフトのデータ(クラウド会計の場合は引き継ぎ方法の確認)
資料の受け取りが完了し、新しい税理士への引き継ぎの目処が立ってから、契約書で定められた手順に従って解約を申し出ます。前任の税理士に対しては、感情的にならず事務的に手続きを進める方が、資料の受け渡しも円滑に進みます。(円満に終えておくと、後で過去の処理について確認したいことが出たときに対応してもらいやすくなります)
よくある質問
顧問料の値上げは断ってもよいのか
値上げを断ること自体は問題ありません。ただし、値上げの理由が業務量増加や制度対応など正当なもので、値上げ後も相場の範囲内であれば、断ったことで税理士側のサービスの優先度が下がる可能性はあります。断る前に、理由の確認と業務範囲の見直しによる交渉を試みる方が建設的です。
値上げ幅はどのくらいまでが妥当か
一律の基準はありませんが、判断の軸は値上げ後の金額が相場の範囲に収まっているかどうかです。数パーセントから1割程度の値上げで、かつ値上げ後も相場内であれば妥当な範囲と考えられます。一度に大幅な値上げを求められた場合は、その根拠を具体的に確認してください。
乗り換え先が見つかる前に解約してもよいか
避けるべきです。先に解約してしまうと、税務処理を担当する税理士が不在の期間が生じ、申告期限が近い場合は特にリスクが高くなります。必ず新しい税理士を確保してから、現在の契約の解約を進めてください。
記帳を自社化すれば必ず安くなるのか
必ずではありません。記帳代行を外せばその分の料金は下がりますが、自社の入力ミスが多いと税理士側のチェック工数が増え、結果的にその修正分が上乗せされることもあります。自社で継続して正確に記帳できる体制があるかどうかで判断してください。
最後に
税理士の顧問料を値上げされたときは、感情的に反発する前に、まず値上げの理由と現在の料金が相場に対して適正かを確認することが出発点です。業務量の増加やインボイス・電子帳簿保存法といった制度対応、人件費の上昇は、業界全体に共通する正当な値上げ理由であり、値上げ後も相場の範囲内であれば受け入れる判断は合理的です。理由が曖昧だったり、値上げ後の料金が明らかに割高だったりする場合に限って、業務範囲の見直しによる交渉や、決算後のタイミングでの乗り換えを検討してください。
今の顧問料が適正かどうか不安な方は、税理士ドットコムの無料紹介サービスで他の税理士の見積もりを取り、比較してみてください。相場の基準を持って臨めば、値上げを受け入れるにしても交渉するにしても、納得のいく判断ができます。











