相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します。法定相続人が3人なら4,800万円、2人なら4,200万円です。遺産の総額がこの基礎控除額を超えなければ、相続税はかからず申告も不要です。この記事では、基礎控除の計算方法から申告が必要になるラインまで解説します。
この記事の目次
基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で決まる
相続税には基礎控除があり、遺産の総額が基礎控除額以下であれば相続税はかかりません。基礎控除額の計算式は以下のとおりです。
基礎控除額 = 3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)
つまり、法定相続人が1人でも最低3,600万円の控除があります。相続人が増えるほど控除額は大きくなり、相続税がかかるハードルが上がる仕組みです(出典 国税庁 No.4102 相続税がかかる場合)。
法定相続人の数ごとの基礎控除額一覧
よくあるパターンでの基礎控除額をまとめます。
| 法定相続人の数 | 基礎控除額 | 家族構成の例 |
|---|---|---|
| 1人 | 3,600万円 | 配偶者のみ、子1人のみ |
| 2人 | 4,200万円 | 配偶者+子1人 |
| 3人 | 4,800万円 | 配偶者+子2人 |
| 4人 | 5,400万円 | 配偶者+子3人 |
| 5人 | 6,000万円 | 配偶者+子4人 |
多くの家庭では法定相続人が2〜3人のケースが多いため、基礎控除額は4,200万〜4,800万円が目安になります。遺産がこの範囲に収まるかどうかが、まず最初の判断ポイントです。
法定相続人の数え方には特別なルールがある
基礎控除額を正しく計算するには、法定相続人の数え方を理解しておく必要があります。民法上の相続人と税法上の法定相続人では、カウント方法が異なる場合があります。
相続放棄した人も法定相続人に含める
相続放棄をした人がいても、基礎控除の計算では「放棄がなかったもの」として法定相続人の数に含めます。たとえば、配偶者と子2人のうち子1人が相続放棄をしても、法定相続人は3人のままです。基礎控除額は4,800万円で変わりません(出典 国税庁 No.4152 相続税の計算)。
養子には人数制限がある
養子を法定相続人に含める場合、以下の制限があります。
| 実子の有無 | 法定相続人に含められる養子の数 |
|---|---|
| 実子がいる場合 | 養子のうち1人まで |
| 実子がいない場合 | 養子のうち2人まで |
これは基礎控除額を増やす目的で養子縁組を行うことへの対策です。(実際に養子縁組で基礎控除を増やそうとする方もいますが、税務署はこの点を厳しく見ています)
「正味の遺産額」が基礎控除を超えると申告が必要
相続税の申告が必要になるかどうかは、「正味の遺産額」と基礎控除額の比較で決まります。正味の遺産額とは、プラスの財産からマイナスの財産を差し引いた金額です(出典 国税庁 財産を相続したとき)。
正味の遺産額の計算方法
正味の遺産額は以下の流れで計算します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| プラスの財産 | 現金・預貯金、不動産、有価証券、生命保険金、退職手当金など |
| マイナスの財産 | 借入金、未払いの税金、葬式費用など |
| 加算する財産 | 相続開始前7年以内の贈与財産、相続時精算課税の適用を受けた贈与財産 |
正味の遺産額 = プラスの財産 - マイナスの財産 + 加算する贈与財産
この正味の遺産額が基礎控除額を超える場合に、相続税の申告と納税が必要になります。逆に、基礎控除額以下であれば申告自体が不要です。
見落としやすい財産に注意する
正味の遺産額を計算する際に見落としやすい財産があります。
- 名義預金(被相続人が実質的に管理していた家族名義の預金)
- 生命保険金(非課税枠を超える部分は課税対象)
- 相続開始前7年以内の贈与(2024年1月1日以後の贈与から段階的に延長)
- 貸付金や未収入金
特に名義預金は税務調査で指摘されやすい項目です。(「子どもの名義だから大丈夫」と思っていても、通帳や印鑑を被相続人が管理していた場合は相続財産に含まれます)
相続税の計算は6つのステップで進める
基礎控除を超えて相続税がかかる場合の計算手順を確認します。計算は少し複雑ですが、順を追って進めれば理解できます(出典 国税庁 No.4152 相続税の計算)。
- 各相続人が取得した財産の課税価格を計算する
- 課税価格の合計額から基礎控除額を差し引き、課税遺産総額を求める
- 課税遺産総額を法定相続分どおりに分けたと仮定して各人の取得金額を計算する
- 各人の取得金額に税率を適用し、相続税の総額を算出する
- 相続税の総額を実際の取得割合で按分する
- 各種控除(配偶者控除など)を適用し、最終的な納付税額を確定する
相続税の税率は10〜55%の8段階
相続税の税率は、法定相続分に応じた取得金額に応じて以下のとおり定められています(出典 国税庁 No.4155 相続税の税率)。
| 法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 10% | なし |
| 1,000万円超〜3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
| 3,000万円超〜5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
| 5,000万円超〜1億円以下 | 30% | 700万円 |
| 1億円超〜2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
| 2億円超〜3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
| 3億円超〜6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
| 6億円超 | 55% | 7,200万円 |
最低税率は10%、最高税率は55%です。ただし、この税率は「法定相続分に応じた取得金額」に対してかかるものであり、遺産全体にそのまま適用されるわけではありません。実際の計算では、課税遺産総額を法定相続分で分けてから税率を適用するため、見た目ほど高額にならないケースが多いです。
具体例で見る相続税の計算シミュレーション
実際の数字を使って計算してみます。
遺産8,000万円を配偶者と子2人が相続するケース
以下の条件でシミュレーションします。
- 正味の遺産額 8,000万円
- 法定相続人 配偶者、子A、子Bの3人
- 基礎控除額 3,000万円+600万円×3人=4,800万円
課税遺産総額は、8,000万円 - 4,800万円 = 3,200万円です。
法定相続分どおりに分けると、配偶者が1/2で1,600万円、子Aと子Bがそれぞれ1/4で800万円ずつとなります。
| 相続人 | 法定相続分 | 取得金額 | 税率 | 控除額 | 税額 |
|---|---|---|---|---|---|
| 配偶者 | 1/2 | 1,600万円 | 15% | 50万円 | 190万円 |
| 子A | 1/4 | 800万円 | 10% | なし | 80万円 |
| 子B | 1/4 | 800万円 | 10% | なし | 80万円 |
相続税の総額は190万円+80万円+80万円=350万円です。
ここからさらに配偶者の税額軽減(後述)を適用すると、配偶者の税額はゼロになるケースがほとんどです。結果的に、子2人で合計約175万円程度の負担になります。(8,000万円の遺産に対して175万円なので、実効税率は約2.2%です)
基礎控除を超えても税額がゼロになる場合がある
正味の遺産額が基礎控除を超えていても、各種控除や特例を適用することで、最終的に相続税がゼロになる場合があります。ただし、これらの特例を使う場合は申告が必要です。「税額ゼロ=申告不要」ではない点に注意してください。
配偶者の税額軽減は最大1億6,000万円まで非課税
配偶者が取得した遺産については、法定相続分相当額または1億6,000万円のいずれか大きい金額まで相続税がかかりません(出典 国税庁 財産を相続したとき)。
たとえば法定相続人が配偶者と子1人の場合、配偶者の法定相続分は1/2です。遺産総額が2億円なら、法定相続分の1億円と1億6,000万円を比較して、大きい方の1億6,000万円まで非課税となります。
(この制度があるため、配偶者の相続税負担は実質的にかなり軽くなります。ただし、配偶者に財産が集中しすぎると、次の相続(二次相続)で子どもの税負担が重くなる点は見落としがちです)
小規模宅地等の特例で土地の評価額を最大80%減額できる
被相続人が住んでいた自宅の土地や、事業用の土地については、一定の要件を満たすと評価額を大幅に減額できます。
| 区分 | 限度面積 | 減額割合 |
|---|---|---|
| 特定居住用宅地等(自宅) | 330平方メートルまで | 80%減額 |
| 特定事業用宅地等 | 400平方メートルまで | 80%減額 |
| 貸付事業用宅地等 | 200平方メートルまで | 50%減額 |
たとえば、自宅の土地の評価額が5,000万円の場合、特定居住用宅地等の特例が適用されれば80%減額で1,000万円の評価になります。この特例の適用だけで基礎控除の範囲内に収まるケースも多いです。
小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を適用するには、たとえ納税額がゼロでも相続税の申告書を提出する必要があります。申告しなければ特例は適用されません。
相続税の申告期限は死亡を知った日から10か月以内
相続税の申告と納税は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に行う必要があります。申告先は、被相続人の住所地を管轄する税務署です(出典 国税庁 No.4102 相続税がかかる場合)。
10か月は意外と短い
10か月と聞くと余裕がありそうに感じますが、実際にはかなりタイトです。
- 遺産の全容を把握するのに1〜2か月かかる
- 不動産の評価には専門的な知識が必要
- 遺産分割協議がまとまらないケースもある
- 必要書類(戸籍謄本・残高証明書など)の取得に時間がかかる
(「まだ時間がある」と後回しにしていると、気づいたときには残り2〜3か月で慌てることになります。特に不動産がある場合は早めに動くのが鉄則です)
期限を過ぎるとペナルティがある
申告期限を過ぎると、以下のペナルティが発生します。
| ペナルティの種類 | 内容 |
|---|---|
| 無申告加算税 | 納付すべき税額の15〜20%(自主的に申告した場合は5%) |
| 延滞税 | 納期限の翌日から納付日までの日数に応じて発生 |
| 特例の適用不可 | 配偶者の税額軽減・小規模宅地等の特例が使えなくなる可能性 |
特に痛いのは、期限後申告では配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例が原則として使えなくなる点です。特例を使えば税額ゼロだったのに、期限を過ぎたせいで数百万円の相続税が発生するケースもあります。
相続税がかかる人の割合は約10人に1人
国税庁の発表によると、令和6年分(2024年)の被相続人数(死亡者数)は約160万人で、このうち相続税の課税対象になった人は全体の約10%前後です(出典 国税庁 令和6年分 相続税の申告事績の概要)。
つまり、亡くなった方の約9割は基礎控除の範囲内に収まっており、相続税がかかっていません。「うちは関係ない」と思っている方が大半ですが、不動産を所有している場合は基礎控除を超える可能性が十分にあります。
都市部に不動産を持つ家庭は要注意
基礎控除額が4,800万円(配偶者+子2人の場合)だとすると、都市部に自宅を持っている家庭では簡単にこのラインを超えます。
- 東京23区内の一戸建て 土地だけで3,000万〜5,000万円以上の評価になることが多い
- 預貯金や有価証券を合わせると基礎控除を超えるケースが増加
- 地方でも、広い農地や複数の不動産を持っている場合は注意が必要
相続財産に不動産が含まれる場合は、早い段階で財産の概算評価をしておくことが重要です。相続が発生してから慌てて調べるのではなく、税理士に事前相談しておくと、必要な対策を余裕を持って進められます。
相続税の申告を自分でやるか税理士に依頼するかの判断基準
相続税の申告は自分で行うことも可能ですが、内容によっては税理士への依頼を検討すべきです。
自分で申告できるケースの目安
- 遺産が預貯金と少額の有価証券のみ
- 不動産が含まれない
- 相続人間で揉めていない
- 特例の適用が不要(基礎控除を少し超える程度)
税理士に依頼すべきケースの目安
- 遺産に不動産が含まれる(評価方法が複雑)
- 小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を適用したい
- 相続人が多い、または相続人間で争いがある
- 被相続人が事業を営んでいた
- 相続財産の総額が1億円を超える
相続税の申告で最もミスが起きやすいのは不動産の評価です。路線価方式や倍率方式といった専門的な計算が必要で、評価を間違えると税額に大きく影響します。(正直なところ、不動産が含まれる時点で税理士に依頼した方が安全です)
相続税に強い税理士を選ぶポイント
税理士にも得意分野があり、すべての税理士が相続税に精通しているわけではありません。相続税の申告は法人税や所得税と比べて件数が少ないため、経験のない税理士も多いのが実態です。依頼する際は以下の点を確認してください。
- 相続税の申告実績が年間10件以上あるか
- 不動産評価の経験が豊富か
- 税務調査への対応実績があるか
- 二次相続まで考慮した提案ができるか
(年間に相続税の申告を1〜2件しか扱わない税理士と、数十件扱う税理士では、ノウハウに大きな差があります)
相続税申告の税理士報酬は、遺産総額の0.5〜1%程度が相場です。遺産5,000万円なら20万〜30万円、1億円なら30万〜60万円が目安になります。費用だけを見ると高く感じますが、不動産評価の適正化や特例の適用漏れ防止で、報酬以上に税額が下がるケースは珍しくありません。
最後に
相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します。法定相続人が3人であれば4,800万円が控除額となり、遺産がこの金額以下であれば相続税はかかりません。ただし、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用する場合は、税額がゼロでも申告が必要です。
特に都市部に不動産を持つ家庭では基礎控除を超える可能性が高いため、早めの対策が重要です。
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