作成日:2026.04.21  /  最終更新日:2026.03.24

事業承継で税理士に依頼できることと早めに相談すべき理由

事業承継を控えた経営者にとって、「税理士に何をどこまで頼めるのか」は気になるポイントです。結論として、事業承継における税理士の役割は税金の計算だけではなく、承継計画の策定から株価算定、事業承継税制の活用支援まで多岐にわたります。この記事では、事業承継で税理士に依頼できる具体的な業務内容と、早めに相談すべき理由を解説します。

この記事の目次

事業承継で税理士に依頼できる業務は大きく5つある

事業承継で税理士がサポートできる領域は、一般的にイメージされる「税金の申告」だけではありません。具体的には以下の5つの業務を依頼できます。

  • 自社株式の評価(株価算定)
  • 事業承継計画の策定支援
  • 事業承継税制(納税猶予制度)の申請サポート
  • 相続税・贈与税の試算と対策の提案
  • M&Aや第三者承継の税務面でのアドバイス

特に自社株式の評価は、事業承継の方向性を決めるうえで最も重要な出発点です。株価が想定以上に高額だった場合、後継者が負担する相続税・贈与税が大きくなり、承継自体が困難になるケースもあります。

自社株式の評価(株価算定)は事業承継の出発点になる

非上場会社の株式には市場価格がないため、税務上のルールに従って評価額を算出する必要があります。この株価算定が事業承継における最初のステップです。

非上場株式の評価方法は会社の規模で異なる

非上場株式の評価方法は、国税庁の財産評価基本通達に基づき、会社の規模によって以下のように区分されます。

会社規模 主な評価方法 概要
大会社 類似業種比準方式 上場している類似業種の株価を基に算出
中会社 併用方式 類似業種比準方式と純資産価額方式を併用
小会社 純資産価額方式 会社の純資産を基に算出

評価方法の選択や計算過程は専門的で、税理士でも事業承継に慣れていないと適切な評価ができないことがあります。株価算定の結果によって、贈与で渡すか、相続まで待つか、事業承継税制を使うかといった承継方法の判断が変わるため、最初に正確な株価を把握することが重要です

株価が高すぎる場合は引き下げ対策を検討する

株価算定の結果、評価額が高くなりすぎている場合は、承継前に株価を引き下げる対策を講じることがあります。具体的な手法としては、役員退職金の支給、設備投資による資産構成の見直し、持株会社の活用などが挙げられます。

ただし、これらの対策は税務上の否認リスクもあるため、必ず事業承継に精通した税理士と相談のうえ進める必要があります。(自己判断で進めて税務調査で否認されたという事例は珍しくありません)

事業承継税制を活用すれば贈与税・相続税の納税が猶予される

事業承継税制は、後継者が非上場株式を贈与や相続で取得した際に、贈与税や相続税の納税が猶予・免除される制度です。中小企業の事業承継を税制面から後押しする仕組みとして、多くの企業に活用されています。

特例措置では対象株式の100%が納税猶予の対象になる

事業承継税制には「一般措置」と「特例措置」の2つがあります。特例措置では、納税猶予の対象となる株式数の上限(総株式数の3分の2)が撤廃され、納税猶予割合も80%から100%に引き上げられています(出典 国税庁 事業承継税制特集)。

項目 一般措置 特例措置
対象株式数 総株式数の3分の2まで 上限なし(全株式)
納税猶予割合 贈与税100%、相続税80% 贈与税・相続税ともに100%
承継パターン 1人の先代から1人の後継者 最大3人の後継者まで対応
適用期限 期限なし 令和9年12月31日まで

特例措置を利用すれば、実質的に贈与税・相続税ゼロで株式を後継者に移転できる可能性があります。ただし、適用後も一定の要件を満たし続ける必要がある点には注意が必要です。

特例承継計画の提出期限は令和8年3月末まで

特例措置の適用を受けるには、事前に「特例承継計画」を作成し、都道府県庁に提出して確認を受ける必要があります。この特例承継計画の提出期限は令和8年(2026年)3月31日です(出典 中小企業庁 法人版事業承継税制(特例措置))。

特例承継計画の作成には認定経営革新等支援機関(認定支援機関)の関与が求められます。税理士の多くは認定支援機関の登録を受けているため、計画の作成から提出までを一括して依頼できます。(逆に言えば、認定支援機関でない税理士には依頼できない業務です)

税理士がサポートする事業承継税制の手続きの流れ

事業承継税制の適用を受けるまでの手続きは複数のステップに分かれます。

  1. 特例承継計画の作成(税理士が認定支援機関として所見を記載)
  2. 都道府県庁への提出・確認
  3. 贈与または相続の実行
  4. 都道府県知事の認定申請
  5. 税務署への申告・納税猶予の申請
  6. 適用後の継続届出書の提出(原則5年間は毎年、その後3年に1回)

これらの手続きを自社だけで進めるのは現実的ではありません。書類の不備や要件の見落としがあると、猶予された税額を一括納付しなければならないリスクもあるため、税理士に任せるべき領域です。

相続税・贈与税の試算で「いくら準備すればよいか」がわかる

事業承継では、株式だけでなく事業用の不動産や現預金なども含めた財産全体の相続税・贈与税の試算が必要です。税理士に依頼すれば、現時点での概算税額を算出し、納税資金の準備計画を立てることができます。

承継方法によって税負担は大きく変わる

事業承継の方法には「相続による承継」「生前贈与による承継」「売買による承継」があり、それぞれ発生する税金の種類や金額が異なります。

承継方法 発生する主な税金 特徴
相続 相続税 基礎控除あり。他の相続財産と合算して課税
生前贈与 贈与税 相続税より税率が高い。ただし計画的に分割可能
売買(譲渡) 譲渡所得税・住民税 時価での取引が必要。資金調達の問題あり

どの方法が最も有利かは、株価の水準、後継者の資金力、他の相続人の有無、事業承継税制の適用可否など複数の要素で決まります。税理士に試算を依頼することで、複数のシミュレーション結果を比較したうえで最適な承継方法を選択できます。

納税資金の確保は承継の成否を分ける

事業承継で見落とされがちなのが、納税資金の確保です。株式の評価額が高くても、それは「含み益」であって現金ではありません。後継者が多額の相続税を課されたにもかかわらず、手元に納税資金がないというケースは実際に起きています。

税理士に相談すれば、生命保険の活用、役員退職金の原資確保、分割納付(延納)の可否など、納税資金の確保策についてもアドバイスを受けられます。

M&Aや第三者承継でも税理士の関与は欠かせない

後継者が親族内にいない場合、従業員への承継や第三者へのM&A(事業売却)が選択肢になります。2025年版の中小企業白書によると、中小企業の経営者の平均年齢は60.7歳に達しており、後継者不在による廃業リスクが依然として高い状況です(出典 中小企業庁 2025年版中小企業白書 第9節 事業承継)。

M&Aでは売却価格と税金の両面で税理士が必要

M&Aで会社を売却する場合、税理士が関与すべきポイントは以下の通りです。

  • 売却スキーム(株式譲渡か事業譲渡か)の税務上の比較
  • 売却価格の妥当性の検証
  • 譲渡所得税・法人税の試算
  • 売却後の個人の確定申告対応

株式譲渡と事業譲渡では、課税の仕組みが根本的に異なります。株式譲渡であれば売却益に対して約20%の所得税・住民税が課されますが、事業譲渡の場合は法人税として課税されたうえ、残余財産の分配時にさらに課税されることもあります。スキームの選択を誤ると、手取り額が数百万円単位で変わるため、必ず税理士に相談してください。

従業員承継では株式の買い取り資金が課題になる

親族外の役員や従業員に承継する場合、株式の買い取り資金をどう確保するかが最大の課題です。後継者個人が多額の資金を用意するのは難しいため、MBO(経営陣による買収)スキームの設計や、種類株式の活用など、税務と会社法の両面からの検討が必要になります。

こうした複雑なスキーム設計は、事業承継に強い税理士でなければ対応が難しい領域です。事業承継の経験が豊富な税理士を探したい場合は、税理士紹介サービスを活用すると、事業承継を専門とする税理士を効率的に見つけられます。

事業承継の相談は「5年前」から始めるのが理想

事業承継は、経営者が引退を考え始めてから動き出すのでは遅すぎます。中小企業庁の事業承継ガイドラインでも、事業承継の準備には5年から10年程度の期間が必要とされています(出典 中小企業庁 事業承継)。

早期着手が必要な3つの理由

事業承継の準備を早めに始めるべき理由は明確です。

  • 株価対策や財産の移転には数年単位の時間がかかる
  • 後継者の育成・経営の引き継ぎには実務経験が必要
  • 事業承継税制の特例措置には適用期限がある

特に株価対策は、一度に大きく動かすと税務上の否認リスクが高まります。数年かけて段階的に進めることで、自然な経営判断として認められやすくなります。(「来年引退するから急いで株価を下げたい」では、税務調査で問題になる可能性があります)

経営者が60歳を超えたら具体的な準備を始めるべき

2025年版中小企業白書によると、中小企業の経営者年齢は依然として高水準にあり、60歳以上の経営者が過半数を占めています。個人企業に至っては、約4割が「自らの代で廃業する」と回答しています(出典 中小企業庁 2025年版中小企業白書 第9節 事業承継)。

「まだ元気だから」「後継者が決まっていないから」と先送りにするケースは多いですが、経営者の突然の病気や事故で事業承継が急務になるリスクは常にあります。少なくとも、自社株式の評価と相続税の試算だけでも早めに済ませておくことを強くお勧めします。

事業承継に強い税理士を選ぶポイントは実績と対応範囲

事業承継は税理士の専門分野の中でも高度な領域です。すべての税理士が事業承継に精通しているわけではないため、依頼先の選び方が重要になります。

事業承継の経験件数と認定支援機関の登録を確認する

事業承継に強い税理士を見極めるポイントは以下の通りです。

  • 事業承継税制の適用実績があるかどうか
  • 認定経営革新等支援機関に登録しているかどうか
  • 非上場株式の評価経験が豊富かどうか
  • 弁護士や司法書士との連携体制があるかどうか

事業承継は税務だけでなく、会社法や民法(遺留分など)も絡むため、他の士業と連携できる体制があるかどうかも重要な判断基準です。(税理士単独では対応しきれない論点は意外と多いです)

顧問税理士と事業承継の専門家は分けて考える

普段の記帳や申告を担当している顧問税理士がそのまま事業承継にも対応できるとは限りません。事業承継は日常の税務業務とは求められる知識も経験も大きく異なります。

顧問税理士に相談してみて、事業承継の経験が浅いと感じた場合は、事業承継を専門とする税理士にセカンドオピニオンを求めるのが賢明です。顧問税理士との関係を維持しつつ、事業承継の部分だけ別の税理士に依頼するという方法も現実的な選択肢です。

事業承継を税理士に依頼した場合の費用感

事業承継に関する税理士費用は、通常の顧問料とは別に発生するケースがほとんどです。業務内容に応じた費用の目安は以下の通りです。

業務内容 費用の目安
自社株式の評価(株価算定) 10万〜30万円
事業承継計画の策定支援 30万〜100万円
事業承継税制の申請サポート 20万〜50万円
相続税・贈与税の申告 遺産総額の0.5〜1%程度
M&Aの税務アドバイザリー 50万〜数百万円(案件規模による)

費用は事業規模や案件の複雑さによって大きく変動します。まずは株価算定だけを依頼して、その結果を見てから本格的な対策に進むという段階的なアプローチが費用面でも現実的です

事業承継で税理士に相談する際に準備しておくべきもの

税理士への初回相談を有意義なものにするために、以下の資料を事前に準備しておくとスムーズです。

  • 直近3期分の決算書・申告書
  • 株主名簿(現在の株主構成)
  • 会社の定款
  • 不動産がある場合は固定資産税の課税明細書
  • 経営者個人の財産の概要(預貯金、不動産、保険など)
  • 後継者候補の有無と現在の関係性

すべてを完璧に揃える必要はありませんが、少なくとも決算書と株主名簿があれば、税理士は概算の株価評価と今後の方向性を示すことができます。(「何も準備せずに相談に行ったら、結局何も具体的な話ができなかった」というケースは避けたいところです)

最後に

事業承継は、税務・法務・経営の各分野が複雑に絡み合う大きなプロジェクトです。税理士に依頼できる範囲は、自社株式の評価から事業承継税制の活用、相続税対策、M&Aの税務支援まで幅広く、早い段階から専門家を関与させることで選択肢が広がります。

特に事業承継税制の特例措置は、特例承継計画の提出期限が令和8年3月末に迫っており、活用を検討している場合は早急に動く必要があります。まずは自社株式の評価だけでも依頼し、現状を正確に把握するところから始めてください。

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執筆者
松下早紀
松下 早紀

税理士事務所・法律事務所で長年勤務した経験を生かし、税理士の選び方や税理士報酬の仕組みなどを解説しています。税理士は一度契約すると、なかなか変更しづらいものの、探す手段も限られています。後悔しない税理士探しをするために税理士ドットコムで最適な税理士選びをオススメします。