訪問介護・デイサービス・グループホームなど介護事業を運営している方にとって、税務会計は一般の事業とは大きく異なります。介護報酬が消費税非課税売上となる点や、国保連からの介護報酬入金が約2ヶ月後となる資金繰りの問題など、業界特有の論点が多いためです。この記事では、介護事業所の税務における注意点と、介護事業に強い税理士事務所5社を編集部の調査結果として紹介します。結論として、開業初期から介護業界に詳しい税理士に依頼することで、区分経理や処遇改善加算の処理漏れを防げます。
この記事の目次
介護報酬は消費税非課税のため独自の税務処理が必要
介護事業の税務で最も注意すべきなのが消費税の取り扱いです。介護保険サービスとして提供する介護報酬は、社会保険診療報酬と同じく消費税非課税売上に該当します。一方で、介護保険外の自費サービスや物販は課税売上となるため、両者を区分して経理する必要があります。
介護保険サービスは原則として消費税非課税
居宅サービス・施設サービス・地域密着型サービスとして指定を受けて提供する介護サービスは、消費税法上の非課税取引に該当します。訪問介護・通所介護・短期入所生活介護・グループホームなどが対象です(出典 国税庁 No.6228 社会福祉事業等としてのサービスの提供)。
非課税売上の比率が高い介護事業者は、仕入時に支払った消費税を全額控除できない仕組みになっています。結果として、設備投資や車両購入で支払った消費税の一部が事業者の負担として残るのが介護業界特有の構造です。(一般事業者なら還付されるケースでも、介護事業者は還付されない場面が多くあります)
保険外の自費サービスや物販は課税売上として区分
介護保険の対象外となる自費サービス(介護保険適用範囲を超えた家事援助や送迎など)、福祉用具の販売、食材費、おむつ代の実費徴収などは課税売上に該当します。これらの売上を介護報酬と一緒くたに処理してしまうと、消費税の申告で誤った処理をする原因になります。
国税庁は「医療保健業の範囲」として、社会保険等の給付対象となる診療報酬は非課税としつつ、選定療養や保険外の自費サービスは課税としています。介護事業も同様の考え方が適用されます(出典 国税庁 No.6201 非課税となる取引)。
国保連からの介護報酬入金が約2ヶ月後で資金繰りが厳しい
サービス提供月から入金まで2ヶ月のタイムラグがある
介護事業の資金繰りで最大の課題となるのが、国民健康保険団体連合会(国保連)からの介護報酬入金タイミングです。サービスを提供した月の翌月10日までに介護給付費請求書を提出し、その翌月末日に入金されるため、実質的に約2ヶ月後の入金となります。
たとえば4月にサービスを提供した分は、5月10日までに請求し、6月末に入金される流れです。この2ヶ月のタイムラグを乗り切るための運転資金を、開業時点で確保しておかないと早期に資金ショートを起こします。(特に訪問介護の場合、職員給与は月末締め翌月払いが多く、最初の3ヶ月は給与の持ち出しが続きます)
開業時には3〜6ヶ月分の人件費を運転資金として準備する
介護事業の人件費比率は売上の60〜70%と非常に高い業界です。日本政策金融公庫も介護事業者向けの融資制度を用意しており、開業時の運転資金として人件費の3〜6ヶ月分を確保しておくことが推奨されています(出典 日本政策金融公庫 環境・エネルギー対策資金)。
融資による運転資金の調達と並行して、税理士に資金繰り表を作成してもらい、毎月の入金見込みと支出を可視化することが重要です。介護業界に強い税理士であれば、国保連入金サイクルを理解した上で資金計画を組んでくれます。
処遇改善加算と特定処遇改善加算は区分経理が必須
加算で受け取った金額は全額職員に還元する必要がある
介護職員処遇改善加算・介護職員等特定処遇改善加算・ベースアップ等支援加算は、介護職員の賃金改善を目的とした加算です。受け取った加算額は介護職員の給与・賞与・手当として全額支給する必要があり、事業者が利益として保留することはできません。
厚生労働省は加算の適切な使用を確認するため、毎年「処遇改善加算実績報告書」の提出を義務付けています(出典 厚生労働省 介護職員の処遇改善)。報告書では加算額と賃金改善額の対応関係を示す必要があるため、加算収入と賃金改善支出を区分して経理しておくことが不可欠です。
加算の会計処理を誤ると指定取消リスクがある
処遇改善加算で受け取った金額を職員に還元せず、内部留保や設備投資に回した場合、自治体の実地指導で指摘を受け、最悪の場合は加算の返還命令や指定取消につながります。加算の管理は税理士任せにせず、事業者自身も加算の趣旨を理解した上で運用する必要があります。(実地指導で書類不備を指摘される事業者は珍しくありません)
訪問介護・デイサービスは経費の科目構成が独特
訪問介護は車両費・燃料費の比率が高い
訪問介護事業では、職員が利用者宅を巡回するため、社用車のリース料・ガソリン代・駐車場代・自動車保険料が大きな経費項目になります。職員の私用車を業務使用する場合は、走行距離に応じた手当(走行距離手当)を支給するケースが多く、その金額の妥当性も税務上の論点となります。
デイサービスは食材費・送迎費・施設の減価償却費が経費の中心
通所介護(デイサービス)では、利用者の昼食や送迎が標準サービスに含まれるため、食材費・送迎用車両のリース料・燃料費が継続的な支出となります。また、デイサービスは一定の床面積と設備基準を満たす施設が必要なため、建物の賃料・改装費・什器備品の減価償却費が経費の中心になります。
| サービス種別 | 主要な経費科目 | 売上比率の目安 |
|---|---|---|
| 訪問介護 | 人件費・車両費・燃料費 | 人件費70〜75% |
| 通所介護(デイサービス) | 人件費・食材費・施設賃料・送迎費 | 人件費55〜65% |
| グループホーム | 人件費・施設賃料・食材費・水光熱費 | 人件費60〜70% |
| 訪問看護 | 人件費・車両費・医療材料費 | 人件費70〜80% |
サービス種別ごとに経費構造が異なるため、複数事業を展開する場合は事業区分ごとの収支管理が求められます。
介護事業の経理を一人で抱え込むのは限界があるため、業界実績のある税理士に相談したい方は無料の税理士紹介サービスを利用すると効率的です。
社会福祉法人と株式会社・合同会社では税務上の扱いが大きく異なる
社会福祉法人は法人税が原則非課税
社会福祉法人は公益法人等に該当し、本来事業(社会福祉事業)から生じる所得は法人税が非課税です。一方、収益事業(物販・不動産賃貸など)から生じる所得には法人税が課税されます。本来事業と収益事業の収支を区分して経理する必要があります。
株式会社・合同会社の介護事業は通常の法人税課税
株式会社や合同会社が運営する介護事業所は、通常の法人と同じく全所得に法人税が課税されます。設立コストは合同会社の方が安く(登録免許税6万円〜)、定款認証も不要です。一方、株式会社は信用力で優位性があり、職員採用や金融機関からの融資交渉で有利になるケースがあります。
| 法人形態 | 法人税 | 設立費用目安 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| 株式会社 | 課税(実効税率約30%) | 25万円前後 | 信用力が高く融資・採用に有利 |
| 合同会社 | 課税(実効税率約30%) | 10万円前後 | 設立費用が安く運営自由度が高い |
| 社会福祉法人 | 本来事業は非課税 | 数百万円〜 | 設立要件が厳格、公益性が求められる |
| NPO法人 | 収益事業のみ課税 | 数万円 | 認証に4ヶ月程度かかる |
介護事業に強い税理士事務所5選
編集部が調査した、介護事業に対応している税理士事務所を5社紹介します。各社のHPに掲載されている料金体系・所在地・特徴を一次情報からまとめています。
有馬公認会計士・税理士事務所
- 介護保険法・障害者総合支援法のサービスに特化した会計事務所
- 東京都庁勤務17年・介護福祉士資格保有のコンサルタントが現場サポート
- 介護指定取得サポートは10万円(税別)〜
- 会社設立から創業融資まで開業前後をワンストップで対応
介護事業の現場経験があるコンサルタントが在籍している点が特徴です。指定申請の代行から会計税務まで一括対応できるため、開業準備中の事業者にとって相談先を一本化できます。(行政手続きと税務を別々の専門家に依頼する手間が省けます)
税理士法人YFPクレア
- 介護事業向けの専門プランを用意(シェルパプラン・グロースプラン)
- 区分経理・按分基準・国保連入金サイクルへの対応実績多数
- 訪問介護200万円〜デイサービス1,200万円の融資実行実績
- 新宿四谷・さいたま浦和・長野松本の3拠点で対応
介護事業の資金繰り課題(約2ヶ月の入金サイト)を踏まえた提案力に強みがあります。融資の実行実績も公開されており、開業時の資金調達まで踏み込んだ支援を求める事業者に向いています。
料金体系
| プラン | 面談頻度 | 月額顧問料 |
|---|---|---|
| シェルパプラン | 年6回 | 29,000〜55,000円+決算料 |
| グロースプラン | 年12回 | 59,000〜99,000円+決算料 |
税理士法人Right Hand Associates
- 創業30年以上、介護事業者支援のノウハウが豊富
- 老人ホーム・グループホーム・訪問介護・デイサービス全形態に対応
- 事業部・支店・チーム別の区分会計に対応
- グループ内に法律事務所(RHA法律事務所)を併設
介護事業者特有の労務トラブルや指定取消リスクへの対応として、税務だけでなく法律相談まで自社グループ内で完結できる点が特徴です。複数事業所を展開している中規模以上の介護事業者に向いています。
- 所在地
- 東京都大田区南蒲田二丁目16番2号 テクノポート大樹生命ビル9F
- 電話番号
- 03-3730-2966(平日9:00〜18:00)
ケイ・アイ&パートナーズ税理士法人
- 訪問介護・デイサービスを中心に幅広くサポート
- 新規開設・会社設立・助成金・実地指導まで一機関で完結
- 税理士報酬は月額10,164円〜と比較的リーズナブル
- 京都・大阪エリアの介護事業者に対応
京都府宇治市に拠点を置き、関西エリアの介護事業者を中心にサポートしています。月額1万円台から依頼できる料金設定で、小規模事業者でも導入しやすい点が特徴です。
料金体系
| プラン | 月額料金 |
|---|---|
| 税理士報酬 | 10,164円〜 |
| 税務パック・労務パック | 19,844円〜 |
- 所在地
- 京都府宇治市琵琶台1丁目2番1
ミネルバ税理士法人
- 訪問看護・訪問介護・放課後等デイサービス・障害者自立支援に対応
- 会社設立から指定申請・創業融資・会計までワンストップ
- 提携行政書士・社労士とチームで運営
- 第1期目は記帳チェック月額10,000円〜と開業初期に優しい料金
開業初期の事業者向けに料金を抑えた設定にしている点が特徴です。第1期目と第2期目で料金体系を分けており、立ち上げ期間の負担を軽減できる構造になっています。(開業初年度はキャッシュが厳しいので、こうした段階的料金は助かります)
料金体系
| 項目 | 第1期目 | 第2期目 |
|---|---|---|
| 記帳チェック(月額) | 10,000円〜 | 15,000円〜 |
| 記帳代行(月額) | 15,000円〜 | 20,000円〜 |
| 決算・申告料 | 90,000円/年 | 166,666円/年 |
| 株式会社設立 | 116,000円〜 | ― |
| 合同会社設立 | 20,000円〜 | ― |
- 所在地
- 東京都品川区大崎5-1-11 住友生命五反田ビル10階
介護事業者が税理士に依頼する費用相場は月額3〜6万円
介護事業特化型は一般顧問料より1〜2万円高い傾向
介護業界に特化した税理士は、区分経理・処遇改善加算の管理・国保連請求のチェックなど業務範囲が広いため、一般的な顧問料よりも高めに設定されているのが実情です。月額3〜6万円が相場となります。
| 事業規模 | 月額顧問料の目安 | 決算料の目安 |
|---|---|---|
| 1事業所(小規模) | 2〜3.5万円 | 15〜20万円 |
| 2〜3事業所 | 3.5〜5万円 | 20〜30万円 |
| 4事業所以上 | 5〜10万円 | 30万円〜要相談 |
記帳代行・給与計算・労務管理を含めると月額5〜8万円
介護事業者は職員数が多いため、給与計算・社会保険手続き・処遇改善加算の管理を税理士または提携社労士に依頼するケースが大半です。これらを含めた月額費用は5〜8万円が目安となります。
料金は事業所数・職員数・売上規模によって大きく変動します。上記はあくまで目安であり、実際の費用は各税理士事務所への見積もり依頼で確認してください。
介護事業に強い税理士を選ぶときの判断基準
介護報酬の区分経理に対応できるか
介護保険サービス(非課税売上)と保険外サービス(課税売上)を正しく区分処理できる税理士を選ぶことが最重要です。一般事業の経験しかない税理士に依頼すると、消費税申告で誤りが生じるリスクがあります。
処遇改善加算の会計処理と実績報告書作成に対応できるか
処遇改善加算は年に1回の実績報告書提出が義務付けられています。加算収入と賃金改善支出の対応関係を整理した報告書を作成できるかどうかが、介護業界の経験値を示す指標になります。
補助金・助成金の活用に詳しいか
介護事業は補助金・助成金の対象になる施策が多い分野です。介護ロボット導入支援補助金、ICT導入支援事業、業務改善助成金など、活用できる制度を税理士から提案してもらえると経営面で大きな差が出ます。
国保連入金サイクルを踏まえた資金繰り提案ができるか
2ヶ月の入金サイトを前提に資金繰り表を組める税理士を選ぶことが重要です。一般事業の感覚で資金計画を立てると、開業初期に資金ショートを起こす危険があります。
介護事業者が税理士に依頼する3つのメリット
区分経理と消費税申告の精度が上がる
介護保険サービスと保険外サービスの区分経理を正確に行うことで、消費税の申告ミスを防げます。税務調査で指摘されるリスクが減り、追徴課税の心配が少なくなります。
処遇改善加算の実績報告がスムーズになる
加算収入と賃金改善支出の対応関係を会計データから抽出できるため、実績報告書作成の負担が軽減されます。実地指導で書類不備を指摘されるリスクも下がります。
補助金・助成金の活用機会が増える
介護業界の補助金情報に精通した税理士から提案を受けることで、自分では気づかなかった助成金を活用できる可能性が高まります。1事業所あたり年間数十万円〜数百万円の補助金獲得につながるケースもあります。
介護事業者が陥りやすい税務上の落とし穴
補助金・助成金は収益として計上を忘れがち
介護ロボット導入支援補助金や業務改善助成金などで受け取った金額は、原則として受取時点で雑収入として計上する必要があります。法人税の課税対象となるため、計上漏れがあると後から修正申告が必要になります。圧縮記帳の特例が使える補助金もあるため、受給前に税理士へ確認することが重要です。
介護職員の人件費比率が高すぎて赤字を見落とす
訪問介護では人件費比率が売上の70〜75%に達するため、わずかな稼働率の低下で赤字に転落します。月次決算を毎月行い、人件費率を常にモニタリングしていないと、年度末に決算書を見て初めて赤字を知るケースがあります。介護事業は薄利の業界であり、月次の数字管理を怠ると経営破綻に直結します。
指定取消リスクの管理は税務以外の論点
運営基準違反・人員配置基準違反・不正請求などで指定取消を受けると、事業継続そのものが不可能になります。税務会計だけでなく、人員配置の管理・記録の整備・実地指導対応まで踏み込んでサポートできる税理士事務所を選ぶことで、こうしたリスクを未然に防げます。(指定取消は介護事業者にとって最大の経営リスクです)
最後に
介護事業の税務会計は、消費税の非課税売上の取り扱い、国保連入金の2ヶ月タイムラグ、処遇改善加算の区分経理など、一般事業とは大きく異なる論点が多い分野です。介護業界の実績がない税理士に依頼すると、消費税申告のミスや処遇改善加算の管理漏れが生じるリスクがあります。月額3〜6万円の顧問料で介護業界に強い税理士を確保することは、長期的に見れば事業の安定運営に直結する投資です。
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