フリーランスや副業で収入を得ているものの、開業届を出していないという方は少なくありません。「開業届を出していないから確定申告もしなくていいのでは」と考える方もいますが、結論として、開業届の提出状況と確定申告の義務はまったくの別問題です。開業届を出していなくても、一定の所得がある場合は確定申告が必要になります。この記事では、開業届と確定申告の関係を整理し、届出を出していない場合に起こりうる問題や、今からでもやるべき対応を解説します。
この記事の目次
開業届を出していなくても確定申告の義務は発生する
まず押さえておくべきポイントは、開業届の提出と確定申告の義務は法律上まったく別の制度だということです。開業届は所得税法第229条に基づく届出義務であり、確定申告は所得税法第120条に基づく申告義務です。両者は独立した手続きのため、片方を出していないからといって、もう片方の義務がなくなることはありません。
確定申告が必要かどうかは、あくまで「その年にどれだけの所得があったか」で判断されます。開業届を出しているかどうかは一切関係ありません。
確定申告が必要になる所得の基準
個人事業主やフリーランスの場合、年間の所得金額(収入から経費を差し引いた金額)が所得控除の合計額を超え、かつ納める税額がある場合に確定申告が必要です(出典 国税庁 No.2020 確定申告)。
具体的な目安として、事業所得のみの場合は以下のようになります。
| 状況 | 確定申告が必要な目安 |
|---|---|
| 専業(事業所得のみ) | 所得が基礎控除額(令和7年分以降は合計所得132万円以下なら95万円)を超える場合 |
| 会社員の副業 | 給与以外の所得が年間20万円を超える場合 |
なお、令和7年度の税制改正により、基礎控除額が見直されています。合計所得金額が132万円以下の場合は基礎控除が95万円に引き上げられました(出典 国税庁 No.1199 基礎控除)。
会社員の副業でも20万円超なら申告が必要
本業で会社員として給与を受け取っている方が、副業でフリーランス収入を得ている場合、給与所得・退職所得以外の所得が年間20万円を超えると確定申告が必要です。この「20万円」は収入ではなく所得(収入マイナス経費)で判断します。
ただし、確定申告が不要な場合でも住民税の申告は別途必要になる点は見落としがちです。(副業の所得が20万円以下だからといって、住民税まで免除されるわけではありません)
開業届は「出す義務」はあるが罰則はない
所得税法第229条では、事業を開始した場合に「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出することが定められています(出典 国税庁 A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続)。提出期限は事業開始の日から1か月以内です。
ただし、開業届を期限内に出さなかった場合の罰則規定は設けられていません。そのため、開業届を出さないまま何年も事業を続けている方が一定数存在するのが実態です。
罰則がないとはいえ、開業届を出していないことで不利益が生じる場面は確実にあります。特に青色申告との関係は重要なので、後述します。
開業届を出していないことで生じる3つの不利益
罰則がないからといって、開業届を出さないままで問題がないわけではありません。実務上、以下のような不利益が発生します。
青色申告ができず最大65万円の控除を受けられない
青色申告を行うには「所得税の青色申告承認申請書」を税務署に提出する必要があります。この申請書は原則として、青色申告をしようとする年の3月15日まで(新規開業の場合は開業日から2か月以内)に提出しなければなりません(出典 国税庁 No.2070 青色申告制度)。
青色申告が認められると、以下の特典が受けられます。
- 青色申告特別控除(e-Taxまたは電子帳簿保存で最大65万円、それ以外は最大55万円)
- 赤字(純損失)を翌年以降3年間繰り越して控除できる
- 家族への給与を必要経費にできる(青色事業専従者給与)
- 30万円未満の資産を一括で経費計上できる(少額減価償却資産の特例)
開業届を出していない方の多くは、青色申告承認申請書も提出していません。その結果、白色申告で確定申告を行うことになり、最大65万円の控除が受けられないまま税金を多く支払っている可能性があります。(年間所得300万円の場合、65万円の控除があるかないかで所得税・住民税合わせて10万円以上の差が出ることも珍しくありません)
屋号での銀行口座開設ができない
事業用の銀行口座を屋号付きで開設する際、多くの金融機関で開業届の控え(税務署の受付印付き)の提示を求められます。開業届を出していないと、屋号付きの口座を作れず、個人名義の口座で事業のお金を管理することになります。
個人名義の口座で事業資金とプライベートの支出が混在すると、帳簿の管理が煩雑になり、確定申告の際にも手間が増えます。
小規模企業共済や各種補助金の申請に支障が出る
個人事業主向けの退職金制度である小規模企業共済への加入や、各種補助金・助成金の申請時に、開業届の控えの提出を求められるケースがあります。開業届を出していないと、こうした制度を利用できない場面が出てきます。
確定申告をしないとどうなるか
開業届と異なり、確定申告を怠った場合は明確なペナルティがあります。「開業届を出していないから」という理由で確定申告もしていない方は、以下のリスクを理解しておく必要があります。
無申告加算税が課される
確定申告の期限(原則として翌年3月15日)までに申告しなかった場合、本来の税額に加えて無申告加算税が課されます。税務署の調査を受ける前に自主的に期限後申告を行えば5%ですが、税務署から指摘を受けた後だと15〜20%の加算税が発生します。
延滞税も加算される
確定申告の期限を過ぎて税金を納めた場合、納付が遅れた期間に応じて延滞税がかかります。延滞税は日割りで計算されるため、申告が遅れれば遅れるほど負担が大きくなります。
悪質な場合は重加算税の対象になる
意図的に所得を隠していたと判断された場合、無申告加算税に代えて重加算税(40%)が課される可能性があります。「知らなかった」では済まされないケースもあるため、所得がある以上は必ず確定申告を行うべきです。
| ペナルティの種類 | 税率 | 発生条件 |
|---|---|---|
| 無申告加算税(自主申告) | 5% | 税務署の指摘前に自主的に申告 |
| 無申告加算税(税務署指摘後) | 15〜20% | 税務署の調査後に申告 |
| 延滞税 | 年2.4〜8.7%程度 | 納付期限を過ぎた場合(日割り計算) |
| 重加算税 | 40% | 意図的な所得隠しと判断された場合 |
開業届を出していない場合に今からやるべきこと
開業届を出していない状態でも、今から対応すれば大きな問題にはなりません。以下の手順で進めてください。
まず開業届を提出する
開業届の提出期限(事業開始から1か月以内)を過ぎていても、届出自体は受理されます。罰則もないため、気づいた時点で速やかに提出しましょう。提出方法は税務署への持参、郵送、e-Taxのいずれかです(出典 国税庁 No.2090 新たに事業を始めたときの届出など)。
青色申告承認申請書も同時に提出する
開業届と一緒に「所得税の青色申告承認申請書」も提出することをおすすめします。青色申告承認申請書の提出期限は以下のとおりです。
| 状況 | 提出期限 |
|---|---|
| 新規開業の場合 | 開業日から2か月以内 |
| 既に事業を行っている場合 | 青色申告をしたい年の3月15日まで |
すでに事業を始めてから期間が経っている場合は、翌年分から青色申告を適用するために、3月15日までに申請書を提出してください。今年分はやむを得ず白色申告になりますが、来年からは青色申告の特典を受けられます。
過去の確定申告をしていない場合は期限後申告を行う
過去に確定申告が必要だったにもかかわらず申告していなかった場合は、過去分の確定申告(期限後申告)を行う必要があります。期限後でも申告は可能で、自主的に申告すれば無申告加算税も5%に軽減されます。
過去の収入や経費の整理が難しい場合や、複数年分の申告が必要な場合は、税理士に相談するのが現実的です。過去分の申告漏れは金額が大きくなることもあるため、自力で対応しようとして間違えるリスクを考えると、専門家に任せた方が結果的に安く済むケースが多いです。
開業届を出していない期間の収入も確定申告の対象になる
「開業届を出す前の収入は申告しなくていい」と誤解している方がいますが、これは間違いです。開業届の提出時期に関係なく、事業で得た収入はすべて確定申告の対象です。
たとえば、2024年4月からフリーランスとして活動を始め、2025年1月に開業届を出した場合でも、2024年4月〜12月の収入は2024年分の確定申告で申告しなければなりません。
開業届を出した日が「事業開始日」として記録されますが、実際の収入発生日と届出日が異なっていても、所得がある以上は申告義務があります。
白色申告と青色申告の違いを理解しておく
開業届を出していない場合、青色申告承認申請書も未提出のため、確定申告は自動的に白色申告になります。白色申告と青色申告の主な違いは以下のとおりです。
| 項目 | 白色申告 | 青色申告 |
|---|---|---|
| 特別控除 | なし | 最大65万円(e-Tax利用時) |
| 赤字の繰越 | 不可 | 3年間繰越可能 |
| 家族への給与 | 事業専従者控除(最大86万円) | 青色事業専従者給与(全額経費算入可) |
| 少額減価償却 | 10万円未満のみ一括経費 | 30万円未満まで一括経費可 |
| 帳簿の要件 | 簡易な帳簿でOK | 複式簿記が必要(65万円控除の場合) |
| 事前届出 | 不要 | 青色申告承認申請書の提出が必要 |
白色申告でも帳簿の作成・保存義務はあります。「白色申告は帳簿不要」というのは2014年以前の話で、現在は白色申告でも収支の記録が必要です。(それなら最初から青色申告にして控除を受けた方が得です)
開業届を出すタイミングに「遅すぎる」はない
開業届の提出期限は事業開始から1か月以内ですが、期限を過ぎた後でも届出は問題なく受理されます。「もう何年も経っているから今さら出しづらい」と感じる方もいますが、税務署側は届出を淡々と処理するだけなので、遅れたことを咎められることはありません。
開業届の提出自体は書類1枚で完了する簡単な手続きです。税務署の窓口に持参するか、e-Taxで提出すれば当日中に終わります。(むしろ「こんなに簡単だったのか」と拍子抜けする方がほとんどです)
開業届を出すことで、青色申告への切り替えや屋号付き口座の開設など、事業運営上のメリットが得られます。出していない方は、確定申告のタイミングに合わせて提出するのがおすすめです。
税理士に相談すべきケース
開業届を出していない状態で確定申告も未対応という場合、状況によっては自力での対応が難しいケースがあります。以下に該当する方は税理士への相談を検討してください。
- 過去数年分の確定申告が未申告のまま放置している
- 収入はあるが経費の記録をまったく残していない
- 税務署から問い合わせや通知が届いた
- 副業の収入が大きくなり、今後も事業として継続する予定がある
- 青色申告に切り替えたいが、帳簿の付け方がわからない
特に過去の無申告分がある場合は、自分で計算するよりも税理士に依頼した方が確実です。経費の計上漏れや控除の適用ミスがあると、結果的に税金を多く払うことになります。
最後に
開業届を出していなくても、所得がある限り確定申告の義務は発生します。開業届と確定申告は別々の制度であり、届出の有無が申告義務を免除することはありません。
開業届未提出の状態を放置するデメリットは、青色申告の特典(最大65万円控除)を受けられないことが最も大きいです。罰則がないからと後回しにしている方は、今からでも開業届と青色申告承認申請書を提出し、翌年分から青色申告に切り替えることを強くおすすめします。
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