作成日:2026.04.05  /  最終更新日:2026.03.24

法人の確定申告を自分でやるのは現実的?難易度とリスクを解説

法人を設立したばかりの経営者が、確定申告(法人税の申告)を自分でできるか気になるのは当然です。結論として、法人の確定申告を自分でやることは制度上は可能ですが、個人の確定申告とは比較にならないほど難易度が高く、現実的にはかなり厳しいです。この記事では、法人の確定申告の具体的な難しさ、自力でやる場合のリスク、そして税理士に依頼すべき判断基準を解説します。

法人の確定申告は個人の確定申告とはまったくの別物

「個人事業主のときは自分で確定申告をしていたから、法人でもできるだろう」と考える方は少なくありません。しかし、法人の確定申告は個人の確定申告とは根本的に異なります。

個人の確定申告は、収入から経費と控除を差し引いて所得税を計算するシンプルな構造です。一方、法人の確定申告は「決算書の作成」と「法人税申告書の作成」の2段階があり、それぞれに高度な会計・税務知識が求められます。

特に法人税申告書には「別表」と呼ばれる明細書が数十種類あり、自社の状況に応じて必要な別表を選んで正確に記載しなければなりません(出典 国税庁 法人税及び地方法人税の申告)。個人の確定申告が「家計簿の延長」だとすれば、法人の確定申告は「プロの経理業務」に相当します。

法人の確定申告で作成が必要な書類は膨大

法人の確定申告では、以下の書類を作成・提出する必要があります。

書類の種類 内容
法人税申告書(別表一) 法人税額の計算結果を記載する申告書本体
別表四(所得の金額の計算) 会計上の利益から税務上の所得へ調整する明細書
別表五(一)(二) 利益積立金額・租税公課の納付状況の明細
別表十五 交際費等の損金算入に関する明細書
別表十六 減価償却資産の償却額の計算に関する明細書
勘定科目内訳明細書 貸借対照表の各科目の内訳を記載する書類
事業概況説明書 会社の事業内容・従業員数・取引状況などを記載
決算報告書 貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書
地方税の申告書 法人住民税・法人事業税の申告書(都道府県・市区町村)
消費税申告書 課税事業者の場合に必要

これらをすべて正確に作成し、事業年度終了の日の翌日から2か月以内に提出しなければなりません。個人の確定申告のように「会計ソフトに入力して自動作成」とはいかないのが法人税申告の現実です。

法人の確定申告が難しい理由は「税務調整」にある

法人の確定申告で最もつまずくのが「税務調整」です。会計上の利益と税務上の所得は一致しないため、その差額を別表四で調整する必要があります。

会計と税務のズレを自力で処理するのは極めて難しい

たとえば、会計上は経費として計上した交際費でも、税務上は損金(経費)として認められない部分があります。減価償却費の計算方法も会計基準と税務基準で異なるケースがあり、これらのズレをひとつひとつ把握して別表に反映させる作業が求められます。

具体的には、以下のような項目で税務調整が発生します。

  • 交際費の損金不算入額の計算(資本金1億円以下の法人は年800万円まで損金算入可能)
  • 減価償却費の償却超過額の調整
  • 役員報酬のうち損金不算入となる部分の処理
  • 引当金の繰入限度額の計算
  • 受取配当金の益金不算入の処理
  • 欠損金の繰越控除の適用判断

これらの処理は、税法の条文を正確に理解していなければ対応できません。(正直なところ、会計の実務経験がない方が独学で理解するには数か月以上かかります)

別表の記載ミスは税務調査で指摘される

別表の記載を間違えると、税務調査の際に指摘されて修正申告を求められます。修正申告をすると追加の税金に加えて加算税や延滞税が課される可能性があり、結果的に税理士に依頼した場合よりも高くつくケースが珍しくありません。

法人税の税率は法人の規模によって異なる

法人税の税率は、資本金の額や所得金額によって異なります。自分で申告する場合、適用される税率を正確に把握する必要があります。

法人の区分 所得金額 税率
中小法人(資本金1億円以下) 年800万円以下の部分 15%
中小法人(資本金1億円以下) 年800万円超の部分 23.2%
普通法人(上記以外) 全額 23.2%

出典 国税庁 No.5759 法人税の税率

ただし法人が納めるのは法人税だけではありません。法人住民税、法人事業税、地方法人特別税なども合わせて申告・納付する必要があります。いわゆる「実効税率」は中小法人で約33〜34%にのぼり、それぞれ別の申告書を作成して提出しなければなりません。

自分で法人の確定申告をする場合の現実的な手順

それでも自力で挑戦したいという方のために、実際に必要な手順を整理します。

日常の記帳から決算書の作成まで

法人の確定申告は、日々の記帳の積み重ねが前提です。具体的には以下の流れになります。

  1. 会計ソフト(freee、マネーフォワード、弥生会計など)で日々の取引を記帳する
  2. 期末に決算整理仕訳(減価償却、未払費用の計上、棚卸資産の評価など)を行う
  3. 貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書を作成する
  4. 勘定科目内訳明細書を作成する
  5. 法人税申告書(各別表)を作成する
  6. 法人住民税・事業税の申告書を作成する
  7. 消費税の申告書を作成する(課税事業者の場合)
  8. e-Taxまたは書面で申告書を提出し、納税する

会計ソフトを使えば決算書の作成まではある程度自動化できます。問題は、決算書の作成後に待っている「法人税申告書の作成」です。ここが個人の確定申告との決定的な違いであり、最大のハードルとなります。

法人税申告ソフトを使えば多少は楽になる

近年は「全力法人税」「freee申告」などの法人税申告ソフトが登場しており、別表の作成を支援してくれます。ただし、これらのソフトを使っても税務調整の判断は自分で行う必要があります。ソフトはあくまで計算と書式を支援するツールであり、「何を調整すべきか」の判断を自動でしてくれるわけではありません。

自力で申告して間違えた場合のペナルティは重い

法人の確定申告を自分で行い、計算ミスや申告漏れがあった場合のペナルティは軽視できません。

無申告・申告ミスにはペナルティ税が課される

申告期限を過ぎてしまった場合や、申告内容に誤りがあった場合には、以下のペナルティが課されます(出典 国税庁 No.2024 確定申告を忘れたとき)。

ペナルティの種類 税率 発生条件
無申告加算税(自主的に申告した場合) 5% 期限後に自ら気づいて申告した場合
無申告加算税(税務調査後) 15〜30% 税務署の調査により申告漏れが発覚した場合
過少申告加算税 10〜15% 申告した税額が実際より少なかった場合
延滞税 年2.4〜8.7%程度 納付期限を過ぎた日数に応じて発生
重加算税 35〜40% 仮装・隠蔽があったと判断された場合

たとえば、本来100万円の法人税を納めるべきところを申告せず、税務調査で発覚した場合、無申告加算税だけで15万〜30万円、さらに延滞税が加算されます。税理士に依頼する費用をはるかに超えるペナルティが発生するリスクがあることは認識しておくべきです。

法人の確定申告を自力でやれる可能性があるケース

すべての法人が税理士に依頼すべきとは限りません。以下の条件をすべて満たす場合に限り、自力での申告も選択肢に入ります。

  • 売上が少なく、取引がシンプル(取引先が数社程度)
  • 従業員がいない、または役員のみの一人法人
  • 経理・簿記の知識がある(簿記2級以上が目安)
  • 法人設立初年度で赤字が見込まれる
  • 法人税申告ソフトを使いこなせる

逆に言えば、上記のいずれかに該当しない場合は、無理せず税理士に依頼した方が安全です。(実際のところ、経理の実務経験がない方が自力で法人税申告書を完成させるのは、丸一週間以上かかることも珍しくありません)

税理士に法人の確定申告を依頼する費用の目安

「税理士に頼みたいけど費用が心配」という方は多いです。法人の確定申告を税理士に依頼する場合の費用目安は以下のとおりです。

依頼内容 費用の目安(年額)
決算・申告のみ(スポット) 15〜30万円
顧問契約+決算・申告 月額2〜5万円+決算料10〜20万円
記帳代行+顧問+決算 月額3〜7万円+決算料10〜20万円

費用だけを見ると「高い」と感じるかもしれません。しかし、自力で申告して間違えた場合のペナルティ、申告業務に費やす時間(数十時間〜数百時間)、控除や特例の適用漏れによる損失を考えると、トータルでは税理士に依頼した方が安く済むケースがほとんどです。

特に法人設立1期目は届出書の提出や会計方針の選択など、その後の税負担に長く影響する判断が多いため、最低でも初年度だけは税理士に依頼することを強くおすすめします。費用感を確認したい方は、税理士の無料紹介サービスで見積もりを取ってみるのが手っ取り早いです。

法人の確定申告で見落としやすいポイント

自力で申告する場合に限らず、法人の確定申告で見落としやすいポイントを押さえておきましょう。

法人税以外の申告を忘れるケースが多い

法人が提出すべき申告書は法人税だけではありません。法人住民税(都道府県民税・市区町村民税)と法人事業税の申告も必要です。これらは法人税とは別の申告書で、提出先も異なります。法人税は税務署、法人住民税と法人事業税は都道府県税事務所と市区町村に提出します。

自力で申告する方の中には、法人税の申告は行ったものの、地方税の申告を忘れていたというケースが意外と多いです。

消費税の申告漏れにも注意が必要

資本金1,000万円以上で設立した法人や、設立2期目以降で課税売上高が1,000万円を超えた法人は消費税の課税事業者となります。2023年10月からのインボイス制度に登録した法人も、消費税の申告が必要です。消費税の申告は法人税とはまったく別の計算体系であり、仕入税額控除の計算など独自の処理が求められます。

赤字でも申告は必要

「赤字だから法人税はゼロ。申告しなくていいだろう」と考えるのは危険です。法人は赤字であっても確定申告が必要です。赤字の申告(欠損金の申告)をしておかないと、翌期以降に黒字が出ても赤字を繰り越して相殺することができません。青色申告法人であれば最大10年間の繰越控除が可能ですが、申告していなければこの恩恵を受けられないのです。

また、法人住民税の均等割(東京都の場合、最低年7万円)は赤字でも納付義務があります。

「自分でやる」と「税理士に頼む」の判断基準

法人の確定申告を自分でやるか税理士に頼むかは、以下の基準で判断してください。

判断基準 自分でやる 税理士に頼む
年商 数百万円以下 1,000万円以上
経理知識 簿記2級以上を保有 簿記の知識がほぼない
取引の複雑さ 取引先が少なくシンプル 取引先が多い・海外取引あり
従業員数 役員のみの一人法人 従業員を雇用している
業種 IT・コンサルなど仕入が少ない業種 小売・製造など在庫管理が必要な業種
申告業務に充てられる時間 1〜2週間は確保できる 本業が忙しく時間が取れない

編集部の見解としては、法人の確定申告は原則として税理士に依頼すべきです。個人事業主の確定申告を自力で行うのとは次元が違います。特に設立初年度は、届出書(青色申告の承認申請書、給与支払事務所等の開設届出書など)の提出漏れが将来の税負担に大きく影響するため、専門家のサポートを受けることを強くおすすめします。

法人の確定申告で税理士に依頼するメリット

税理士に依頼するメリットは「楽になる」だけではありません。実務上、以下のような具体的なメリットがあります。

  • 税務調整の漏れがなくなり、正確な申告ができる
  • 適用可能な特例や控除を見落とさずに済む
  • 税務調査の際に税理士が立ち会ってくれる(税理士法第33条の2に基づく書面添付制度)
  • 決算対策のアドバイスを受けられる(利益の調整、設備投資のタイミングなど)
  • 申告業務にかかる時間を本業に充てられる

特に「適用可能な特例の見落とし」は見逃せません。中小企業向けの税制優遇措置は数多くありますが、自分で申告する場合、そもそもどんな特例があるのか把握できていないことがほとんどです。(税理士に依頼したら、自力申告では見落としていた特例の適用で数十万円の節税ができた、というケースは珍しくありません)

最後に

法人の確定申告を自分でやることは制度上は可能ですが、個人の確定申告とは難易度がまったく異なります。法人税申告書の別表作成、税務調整、地方税の申告、消費税の申告と、処理すべき項目は多岐にわたり、ひとつでも間違えればペナルティのリスクがあります。

経理の知識が十分にあり、取引もシンプルな一人法人であれば自力での申告も選択肢に入りますが、そうでなければ税理士に依頼するのが現実的な判断です。特に設立初年度の申告は、その後の税負担に長く影響するため、専門家のサポートを受ける価値は十分にあります。

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執筆者
松下早紀
松下 早紀

税理士事務所・法律事務所で長年勤務した経験を生かし、税理士の選び方や税理士報酬の仕組みなどを解説しています。税理士は一度契約すると、なかなか変更しづらいものの、探す手段も限られています。後悔しない税理士探しをするために税理士ドットコムで最適な税理士選びをオススメします。