作成日:2026.04.24  /  最終更新日:2026.03.24

個人事業主の経費はどこまで認められる?判断に迷ったら税理士に相談

個人事業主にとって、何が経費になるかは手取り額に直結する重要な問題です。経費を正しく計上すれば所得税を抑えられますが、判断を誤ると税務調査で否認されるリスクもあります。この記事では、個人事業主の経費の基本的な考え方と、判断に迷いやすいケースを整理し、税理士に相談すべきタイミングを解説します。

個人事業主の経費は「事業に直接必要な支出」が原則

経費(必要経費)とは、事業の売上を得るために直接必要な支出のことです。国税庁は必要経費について「総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額」および「その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額」と定めています(出典 国税庁 No.2210 やさしい必要経費の知識)。

つまり、プライベートの支出は経費にならず、事業のための支出だけが経費になるというのが大原則です。ここを曖昧にしたまま確定申告を進めると、後から税務署に指摘される原因になります。

経費として認められる代表的な勘定科目

個人事業主が経費に計上できる主な勘定科目は以下の通りです。

勘定科目 内容の例
租税公課 事業税、固定資産税(事業用部分)、印紙税、自動車税(事業用)
荷造運賃 商品の発送費用、宅配便代
水道光熱費 電気代、ガス代、水道代(事業用部分)
旅費交通費 電車代、タクシー代、出張費用
通信費 電話料金、インターネット回線、切手代
広告宣伝費 チラシ、Web広告、名刺作成費
接待交際費 取引先との飲食、贈答品
消耗品費 文房具、10万円未満のPC周辺機器
地代家賃 事務所・店舗の家賃(事業用部分)
外注費 業務委託費、デザイン外注費

ここで注意すべきなのは、所得税と住民税は経費にならないという点です。事業税は経費になりますが、所得税・住民税は個人の税金なので必要経費に算入できません。この違いを知らずに計上してしまう個人事業主は少なくありません。

家事按分は「合理的な基準」で分ければ経費にできる

自宅で仕事をしている個人事業主にとって最も判断が難しいのが「家事按分」です。家賃や光熱費、通信費など、プライベートと事業の両方にかかる費用は「家事関連費」と呼ばれ、事業に使った割合を合理的に計算して按分すれば経費にできます。

国税庁の通達では、家事関連費のうち必要経費になるのは「取引の記録等に基づいて、業務の遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合のその区分できる金額」とされています(出典 国税庁 所得税基本通達 家事関連費)。

按分の計算例

費用 按分の基準 計算例
家賃 事業に使用している床面積の割合 自宅80平米のうち仕事部屋20平米 → 25%を経費計上
電気代 使用時間やコンセント数の割合 1日のうち8時間を業務に使用 → 約33%を経費計上
通信費 業務利用の割合 スマホの利用時間のうち業務が半分 → 50%を経費計上
自動車関連費 走行距離の割合 月間走行距離1,000kmのうち業務600km → 60%を経費計上

按分割合に法律上の決まりはありませんが、「なぜこの割合なのか」を説明できる根拠が必要です。(税務調査で聞かれたとき「なんとなく半分」では通りません)

按分割合の根拠は記録に残すべき

按分の根拠として有効なのは、作業時間の記録、業務用スペースの面積の測定記録、走行距離のメモなどです。記録がなければ、税務調査で否認される可能性が高くなります。面倒でも、開業時に按分の基準を決めて記録しておくことが重要です。

按分割合が適切かどうか自信がない場合は、税理士に相談して妥当な割合を確認するのが確実です。

判断に迷いやすい経費の具体例

「これは経費になるのか」と多くの個人事業主が迷うケースがあります。以下に代表的な例を挙げますが、最終的な判断は個々の事業内容や状況によって異なるため、税理士への確認が必要です。

スーツ・衣服は原則として経費にならない

ビジネス用のスーツや靴は、プライベートでも着用できるため、原則として経費には認められません。ただし、作業着やユニフォームなど、業務でしか使わない衣服は経費にできる可能性があります。「仕事でしか着ない」という主張だけでは通らないケースが多いため、判断に迷う場合は税理士に確認してください。

飲食代は「誰と・何の目的で」が重要

取引先との打ち合わせを兼ねた食事は接待交際費として経費にできますが、一人での食事は原則として経費になりません。経費として計上する場合は、レシートに「取引先名」「打ち合わせの目的」をメモしておく習慣をつけてください。(このメモがあるかないかで税務調査の結果が大きく変わります)

自己研鑽のためのセミナー・書籍は事業との関連性がカギ

事業に直接関係するセミナーの受講料や書籍代は、研修費や新聞図書費として経費に計上できる場合があります。ただし、趣味に近い内容や事業との関連が薄いものは認められにくいです。事業との関連性を明確に説明できるかどうかが判断基準になるため、不安な場合は税理士に確認しましょう。

家族への給与は届出なしでは経費にならない

個人事業主が配偶者や親族に給与を支払って経費にするには、青色申告をしていることが前提で、さらに「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に提出しなければなりません。届出なしに家族への支払いを経費にしていると、確定申告時に否認されます。(白色申告の場合は「事業専従者控除」として配偶者86万円、その他の親族50万円が上限です)

経費にならない支出を把握しておく

経費にできるものだけでなく、経費にならないものを知っておくことも同じくらい重要です。誤って経費計上すると、税務調査で追徴課税を受ける原因になります。

  • 所得税、住民税(個人にかかる税金であり、事業の経費ではない)
  • 国民健康保険料、国民年金保険料(経費ではなく「社会保険料控除」で所得控除する)
  • 罰金、反則金、延滞税、加算税(ペナルティは経費にならない)
  • 生計費(生活費や個人的な買い物)
  • 事業主本人の給与・退職金(個人事業主には「自分への給与」という概念がない)

特に多い間違いが、国民健康保険料を経費に入れてしまうケースです。これは経費ではなく、確定申告書の「社会保険料控除」の欄に記載して所得控除を受けるのが正しい処理です。

青色申告なら経費の幅が広がる

個人事業主の確定申告には白色申告と青色申告がありますが、経費面でのメリットを考えると青色申告を選ぶべきです。

青色申告特別控除で最大65万円の所得控除が受けられる

青色申告をしてe-Taxで申告すると、最大65万円の青色申告特別控除を受けられます。これは経費とは別に所得から差し引ける控除であり、実質的に65万円分の経費と同じ効果があります。(白色申告にはこの控除がありません)

30万円未満の固定資産を一括で経費にできる

青色申告をしている個人事業主は、少額減価償却資産の特例により、30万円未満の固定資産を取得した年に全額経費にできます(年間合計300万円まで)。白色申告の場合は10万円以上の資産は減価償却が必要になるため、経費計上のタイミングに差が出ます。

赤字を3年間繰り越せる

青色申告では、事業で赤字が出た場合に、その損失を翌年以降3年間にわたって繰り越して、黒字の年の所得から差し引くことができます。開業初年度で初期投資がかさんだ場合などに大きなメリットになります。

青色申告への切り替えは「所得税の青色申告承認申請書」を税務署に提出するだけで手続きできます。提出期限はその年の3月15日まで(新規開業の場合は開業日から2か月以内)です。手続き自体は難しくありませんが、複式簿記での記帳が必要になるため、記帳に不安がある方は税理士に相談するのが無難です。

経費の判断を間違えると税務調査で指摘される

令和6年分の確定申告では所得税等の申告人員は約2,339万人にのぼっています(出典 国税庁 令和6年分の確定申告状況等について)。申告件数が多いため「自分のところには来ないだろう」と思いがちですが、税務調査は個人事業主にも実施されます。

経費の否認で追徴課税が発生するケース

税務調査で経費が否認されると、本来納めるべきだった税金に加えて、以下のペナルティが課される可能性があります。

ペナルティの種類 内容
過少申告加算税 本来の税額との差額に対して10〜15%
延滞税 納付が遅れた期間に応じて年2.4〜8.7%程度
重加算税 仮装・隠蔽があった場合に35〜40%

「知らなかった」は通用しません。特にプライベートの支出を意図的に経費に混ぜていた場合は重加算税の対象になるため、最初から正しく処理することが重要です。

領収書やレシートの保管は最低5年間

経費の裏付けとなる領収書やレシートは、白色申告で5年間、青色申告で7年間の保存が義務づけられています。保存期間中に税務調査が入った場合、領収書がなければ経費として認められません。デジタルでの保存も認められていますが、電子帳簿保存法の要件を満たす必要があります。

よくある失敗として、領収書を整理せずに箱に入れたままにしておくケースがあります。税務調査では特定の取引について詳細を聞かれるため、日付順や勘定科目別に整理しておかないと、該当する領収書を探すだけで膨大な時間がかかります。(税務調査の当日に慌てて探し始めても遅いです)

経費の判断で税理士に相談すべき3つのタイミング

すべての経費判断を自分で行うのが難しいと感じたら、以下のタイミングで税理士への相談を検討してください。

開業初年度は経費のルールを固めるべき

開業したばかりの時期は、家事按分の割合や勘定科目の分類など、経費処理の基本ルールを決める必要があります。最初に税理士と相談してルールを固めておけば、2年目以降は自分で処理しやすくなります。(初年度に自己流で始めてしまうと、後から修正するのが大変です)

年商が500万円を超えたら経費管理の負担が増える

年商が500万円を超えると、取引の数が増えて経費の判断も複雑になります。仕入れが発生する業種では在庫管理も必要になるため、税理士に記帳代行や経費チェックを依頼した方が効率的です。経費のチェックだけなら月額1〜2万円程度で対応してくれる税理士事務所もあります。

また、年商が1,000万円を超えると消費税の課税事業者になるため、経費の処理がさらに複雑になります。消費税の仕入税額控除には帳簿と請求書の保存要件があり、インボイス制度への対応も必要です。このタイミングで税理士をつけていない個人事業主は、消費税の処理で大きなミスをするリスクが高くなります。

税務調査の連絡が来たら即座に相談する

税務署から調査の連絡が来た場合は、すぐに税理士に相談してください。税理士は税務調査に立ち会うことができ、税務署との交渉も代行してくれます。自分だけで対応すると、本来認められるはずの経費まで否認されてしまうリスクがあります。

税理士に経費の相談をする場合の費用目安

「税理士に相談するとお金がかかる」というイメージがありますが、相談の方法によって費用は大きく異なります。

相談方法 費用の目安 向いている人
スポット相談(単発) 1回5,000〜1万円程度 特定の経費判断だけ聞きたい人
確定申告のみ依頼 年間5〜15万円 普段の記帳は自分でやる人
顧問契約(月次) 月額1〜3万円 経費判断を含めて継続的に相談したい人

スポット相談なら数千円で済むため、「経費になるかどうか」の判断に自信がない支出が出てきたときにピンポイントで利用するのが費用対効果の高い方法です。(数千円の相談料で数万円の追徴課税を防げるなら、十分元が取れます)

最後に

個人事業主の経費は「事業に直接必要な支出」が原則ですが、実際にはグレーゾーンの支出が数多く存在します。家事按分の割合、飲食代の取り扱い、自己研鑽費用の計上など、判断に迷う場面は避けられません。

経費の判断を誤ると、確定申告後に税務調査で否認されて追徴課税を受けるリスクがあります。特に開業初年度や年商が増えてきたタイミングでは、税理士に相談して正しい経費処理のルールを確認しておくことが、結果的に最も確実な方法です。

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執筆者
松下早紀
松下 早紀

税理士事務所・法律事務所で長年勤務した経験を生かし、税理士の選び方や税理士報酬の仕組みなどを解説しています。税理士は一度契約すると、なかなか変更しづらいものの、探す手段も限られています。後悔しない税理士探しをするために税理士ドットコムで最適な税理士選びをオススメします。