個人事業を廃業するとき、届出書類の多さに戸惑う方は少なくありません。結論として、届出書の記入・提出自体は自分でもできますが、廃業年の確定申告や消費税の処理まで含めると、税理士に依頼した方が安全です。この記事では、廃業時に必要な届出の一覧と提出先、税理士に頼むべきかどうかの判断基準を解説します。
この記事の目次
廃業届出は全部で最大6種類ある
個人事業の廃業では、状況に応じて複数の届出書を税務署や自治体に提出する必要があります。「廃業届を1枚出せば終わり」と思っている方が多いですが、実際には最大6種類の届出が必要になるケースがあります。
| 届出書類 | 対象者 | 提出先 | 提出期限 |
|---|---|---|---|
| 個人事業の開業・廃業等届出書 | 全員 | 所轄税務署 | 廃業日から1か月以内 |
| 所得税の青色申告の取りやめ届出書 | 青色申告者 | 所轄税務署 | 翌年3月15日まで |
| 給与支払事務所等の廃止届出書 | 従業員を雇用していた方 | 所轄税務署 | 廃止日から1か月以内 |
| 事業廃止届出書(消費税) | 消費税の課税事業者 | 所轄税務署 | 速やかに |
| 事業開始(廃止)等申告書 | 全員 | 都道府県税事務所 | 都道府県により異なる |
| 事業開始(廃止)等申告書 | 全員 | 市区町村役場 | 市区町村により異なる |
このうち、税務署に提出する書類が最も重要です。特に消費税の課税事業者やインボイス登録事業者の場合は、消費税関連の届出も必要になるため、書類の数が増えます。
廃業届(開業・廃業等届出書)の書き方はシンプル
廃業届の正式名称は「個人事業の開業・廃業等届出書」です。開業時に提出したものと同じ様式を使い、廃業に丸をつけて提出します。
記入する項目は以下の通りです。
- 納税地(自宅住所または事業所の住所)
- 氏名・マイナンバー
- 職業・届出の区分(廃業を選択)
- 廃業日
- 廃業の理由
- 届出の届出先(所轄の税務署名)
書式は国税庁のサイトからダウンロードでき、e-Taxでの電子提出にも対応しています(出典 国税庁 個人事業の開業届出・廃業届出等手続)。記入自体は10〜15分程度で終わるため、届出書の作成だけであれば税理士に頼まなくても問題ありません。
廃業届の提出方法は3つある
廃業届の提出方法は以下の3つです。
- 税務署の窓口に直接持参する(受付時間は平日8時30分〜17時)
- 郵送で提出する(届出書の控えが必要な場合は返信用封筒を同封)
- e-Tax(電子申告)で提出する(24時間対応)
窓口に持参する場合は、本人確認書類(マイナンバーカードまたは通知カード+運転免許証など)を持参してください。郵送の場合は届出書のコピーと返信用封筒(切手貼付済み)を同封すれば、受付印を押した控えを返送してもらえます。控えは廃業の証明になるため、必ず保管しておいてください。
青色申告の取りやめ届出書は翌年3月15日が期限
青色申告をしていた方は、廃業届とは別に「所得税の青色申告の取りやめ届出書」を提出する必要があります。提出期限は、青色申告を取りやめようとする年の翌年3月15日までです(出典 国税庁 所得税の青色申告の取りやめ手続)。
廃業届と同時に提出すれば出し忘れを防げます。書式も1枚もので、記入項目は氏名・住所・取りやめの理由程度です。なお、青色申告の取りやめ届出書を出さずに廃業届だけ提出しても、税務署側で自動的に青色申告の承認が取り消されるわけではありません。将来的に再度個人事業を始める際に混乱する原因になるため、きちんと提出しておくのが無難です。
消費税の届出は課税事業者だけが対象
消費税の課税事業者(売上が1,000万円を超えていた方やインボイス登録事業者)は、「事業廃止届出書」の提出が必要です。提出先は所轄の税務署で、期限は「事由が生じた場合速やかに」とされています(出典 国税庁 個人事業者が事業を廃止した場合)。
事業廃止届出書を出せば他の不適用届出は不要になる
消費税関連では、課税事業者選択不適用届出書や簡易課税制度選択不適用届出書など、複数の届出が存在します。ただし、事業廃止届出書を提出すれば、これらの不適用届出書も提出したものとして取り扱われます。つまり、消費税に関しては事業廃止届出書1枚でまとめて処理できます。
廃業年の消費税申告は忘れやすい
廃業した年であっても、その年の1月1日から廃業日までの期間に対する消費税の確定申告が必要です。また、廃業時に残っている事業用資産(車両や設備など)は、廃業時に自分自身に譲渡したとみなされ、消費税の課税対象になる可能性があります。(この「みなし譲渡」の処理を知らない方が意外と多いです)
消費税の処理は複雑になりやすく、ここが税理士に相談すべきポイントの一つです。
届出先は税務署だけではない
税務署への届出ばかりに目が行きがちですが、都道府県税事務所と市区町村にも届出が必要です。
| 届出先 | 届出書類 | 備考 |
|---|---|---|
| 所轄税務署 | 廃業届・青色取りやめ届・消費税関連など | 国税関係の届出 |
| 都道府県税事務所 | 事業開始(廃止)等申告書 | 個人事業税の届出。提出期限は都道府県により異なる |
| 市区町村役場 | 事業開始(廃止)等申告書 | 住民税の届出。不要な自治体もある |
都道府県税事務所への届出は、東京都の場合は事業廃止日から10日以内、その他の道府県では概ね廃業後速やかにとされています。自治体によって期限や書式が異なるため、事前に管轄の税事務所に確認してください。
廃業届出を税理士に依頼する費用は2〜5万円が目安
廃業届出の作成・提出を税理士に依頼する場合、届出書類の作成だけであれば2〜5万円が相場です。ただし、廃業年の確定申告や消費税の申告もセットで依頼するケースがほとんどで、その場合は合計で10〜20万円程度になります。
| 依頼内容 | 費用目安 |
|---|---|
| 廃業届出書の作成・提出のみ | 2〜5万円 |
| 廃業届出 + 廃業年の確定申告 | 10〜15万円 |
| 廃業届出 + 確定申告 + 消費税申告 | 15〜20万円 |
(上記は個人事業主の目安であり、事業規模や仕訳数によって変動します)
「届出書の作成だけで2〜5万円は高い」と感じるかもしれませんが、実際には届出書の作成に加えて、提出期限の管理や届出内容の整合性チェック、税務署への対応まで含まれています。ただし、前述の通り届出書の記入自体はシンプルなので、費用を抑えたいなら届出は自分で行い、確定申告だけ税理士に依頼するのが最もコストパフォーマンスの良い方法です。
税理士に頼むべきケースと自分でできるケース
廃業届出のすべてを税理士に任せる必要はありません。自分の状況に応じて、自力で対応できる部分と専門家に頼むべき部分を切り分けることが大切です。
自分で対応できるケース
- 白色申告で消費税の免税事業者だった場合
- 従業員を雇っていなかった場合
- 事業用の資産(車両・設備など)がほぼない場合
- 売上が少なく、確定申告の内容がシンプルな場合
この条件に当てはまるなら、提出する届出は廃業届と都道府県への届出の2〜3種類だけです。書類もシンプルなので、自分で対応しても問題ありません。
税理士に依頼すべきケース
- 消費税の課税事業者またはインボイス登録事業者だった場合
- 青色申告で65万円控除を受けていた場合
- 廃業時に事業用資産(車・機械・在庫)が残っている場合
- 従業員を雇用しており、源泉徴収の年末調整が未処理の場合
- 廃業後も不動産所得など他の所得がある場合
特に消費税の処理と、事業用資産の処理は間違えやすいポイントです。廃業年の確定申告で経費の計上漏れや、事業用資産のみなし譲渡の処理を誤ると、後から税務署に指摘される可能性があります。「自分で全部やったつもりが、税務調査で数十万円の追徴課税になった」というケースも珍しくないため、判断に迷うなら税理士に相談してください。
廃業届出の手続きの流れ
廃業届出は以下の流れで進めます。事前に必要書類を確認し、まとめて提出するのが効率的です。
廃業日を決めてから届出書を準備する
まず廃業日を確定させます。廃業届の提出期限は廃業日から1か月以内なので、廃業日を決めてから速やかに届出の準備に入ります。
- 廃業日を決定する
- 該当する届出書類を確認する(前述の一覧表を参照)
- 届出書を作成する(国税庁サイトからダウンロードまたはe-Tax)
- 所轄税務署に届出書を提出する(持参・郵送・e-Tax)
- 都道府県税事務所・市区町村に届出を提出する
- 廃業年分の確定申告を行う(翌年2月16日〜3月15日)
届出書はまとめて提出するのが効率的
税務署に提出する届出書は、廃業届・青色申告取りやめ届出書・給与支払事務所廃止届出書・消費税関連の届出書をまとめて1回で提出できます。何度も税務署に足を運ぶ必要はありません。郵送で提出する場合は、控えの返送用に切手を貼った返信用封筒を同封してください。
廃業届の提出前にやっておくべき準備
廃業届を出す前に、以下の準備を済ませておくとスムーズに手続きが進みます。
- 取引先への廃業通知と売掛金・買掛金の精算
- 在庫の処分方法の決定(売却・廃棄・自家消費)
- 事業用口座の残高確認と事業経費の精算
- リース契約・賃貸契約の解約手続き
- 従業員がいる場合は退職手続き・社会保険の届出
これらの準備が整っていないまま廃業届を出すと、廃業日以降に発生した費用を経費に入れられるかどうかで悩むことになります。廃業日は「すべての精算が完了する見込みの日」に設定するのが実務上のポイントです。
廃業届出を出し忘れるとどうなるのか
廃業届の提出が遅れても、罰則(罰金や加算税)が課されることはありません。ただし、届出を出さないまま放置すると以下のリスクがあります。
- 税務署の記録上は「事業を継続している」扱いになる
- 確定申告書が届き続ける(申告義務があると判断される可能性がある)
- 消費税の課税事業者のままになり、申告義務が継続する
- 個人事業税の課税対象のまま残る
実害が大きいのは消費税の届出漏れです。課税事業者のまま放置すると、事業をしていなくても消費税の申告義務が残ります。無申告になれば加算税や延滞税がかかるため、消費税の届出だけは早めに済ませてください。
また、廃業届を出し忘れたことに後から気づいた場合でも、遡って届出を出すことは可能です。「今さら出しても意味がない」とそのままにする方がいますが、届出を出さない限り税務署の記録は更新されません。気づいた時点で速やかに提出してください。
廃業後の確定申告で注意すべきポイント
廃業届出を出しても、それだけでは手続きは完了しません。廃業した年の確定申告が残っています。
廃業年の経費は「漏れなく」計上する
廃業年の確定申告では、1月1日から廃業日までの所得を申告します。事業の片付けにかかった費用(原状回復工事、在庫の廃棄費用など)も経費に含められるため、漏れなく計上してください。
特に見落としやすいのが以下の項目です。
- 事務所の原状回復費用
- リース契約の解約金
- 在庫・備品の処分費用
- 廃業後に届いた事業関連の請求書(通信費・光熱費など)
廃業後に届いた経費は「事業についていた期間分」を按分する
廃業後に届く電話代や光熱費の請求書は、事業に使っていた期間分だけを経費として計上できます。この按分計算が面倒な場合は、税理士に確定申告ごと依頼するのが確実です。廃業時にまだ顧問税理士がいない場合は、税理士紹介サービスで廃業手続きに対応できる税理士を探してみてください。
減価償却中の資産は未償却残高を必要経費にできる
廃業時にまだ減価償却が終わっていない資産(パソコン、車両、設備など)がある場合、未償却残高を廃業年の必要経費に算入できます。ただし、廃業後も個人的に使い続ける資産は除外されます。この処理を忘れると、本来経費にできた金額を見逃すことになるため、固定資産台帳を確認して未償却残高をチェックしてください。
廃業届出だけなら税理士なしでも問題ない
ここまで解説してきた通り、廃業届出の書類そのものは記入項目が少なく、特別な知識がなくても作成できます。税理士に頼む必要があるかどうかは、届出書の記入ではなく「廃業年の確定申告や消費税の処理に不安があるかどうか」で判断すべきです。
| 状況 | 判断 |
|---|---|
| 免税事業者・白色申告・従業員なし | 自分で対応可能 |
| 青色申告をしていたが、消費税は免税だった | 自分で対応可能(やや慎重に) |
| 消費税の課税事業者だった | 税理士に依頼すべき |
| 事業用資産が残っている | 税理士に依頼すべき |
| 廃業後も不動産所得などがある | 税理士に相談すべき |
(届出書の記入自体はシンプルですが、廃業年の確定申告の中身が複雑な場合は、届出と申告をセットで税理士に依頼した方がトータルで安心です)
最後に
個人事業の廃業届出は、必要な書類を把握して期限内に提出すれば、手続き自体は難しくありません。ただし、消費税の処理や廃業年の確定申告まで含めると、判断に迷う場面が出てきます。特に課税事業者だった方や事業用資産が残っている方は、自己判断で処理するリスクを考えると、税理士に相談した方が結果的に安上がりです。
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