相続税の申告は、税理士であれば誰でも同じ結果になる仕事ではありません。土地の評価方法や特例の適用判断によって、納める税額が数百万円単位で変わることがあります。この記事では、相続税を専門的に扱っている税理士事務所5社の実績と報酬体系を比較し、依頼先を選ぶときの判断基準を整理します。
この記事の目次
相続税申告を毎年扱っている税理士は全体の一部にとどまる
相続税の申告は、税理士登録さえしていれば誰でも受任できます。ただし、実際に相続税申告を日常的に扱っている税理士は限られます。
相続税の申告件数は所得税や法人税に比べて圧倒的に少ない
税理士の主戦場は、法人の決算申告と個人の確定申告です。相続は「顧問先の経営者が亡くなったときに年に1件あるかどうか」という事務所も珍しくありません。相続税申告を年に1件も扱わない税理士事務所は普通に存在します。
相続税は、基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える財産がある場合に申告が必要になります(出典 国税庁 No.4152 相続税の計算)。基礎控除の詳しい計算方法は相続税の基礎控除はいくら?計算方法と申告が必要になるラインで解説しています。
土地の評価しだいで納税額が変わる
相続財産の中で最も評価が難しいのが土地です。同じ土地でも、形状や道路との接し方、利用状況をどう捉えるかで評価額が変わります。不整形地の補正や、広大な土地の評価減、貸家建付地としての減額など、判断が必要な論点が数多くあります。
相続財産に不動産が含まれるかどうかで、税理士選びの重要度は大きく変わります。預貯金だけの相続であれば申告書の作成自体は難しくありませんが、土地が絡むと評価の巧拙がそのまま税額に反映されます。(同じ土地について複数の税理士に評価してもらうと、評価額に差が出ることは実際にあります)
相続税に強い税理士5選
相続税申告を専門的に扱い、実績や報酬体系を公開している税理士事務所を5社紹介します。年間の申告件数、税務調査率、報酬の目安を比較して、依頼先を検討してください。
税理士法人チェスター

- 令和7年の相続税申告実績3,076件、累計19,000件超
- 相続税専門の税理士が102名以上在籍、全国21拠点
- 書面添付制度に基本報酬の範囲内で対応
税理士法人チェスターは、相続税申告に特化した税理士法人です。公式サイトによると令和7年の申告実績は3,076件、累計では19,000件を超えており、相続税専門の税理士102名以上を含む532名の体制で全国21拠点を展開しています。
税務調査率は1%と公表されており、元国税OBが在籍する審査部を設けて申告書の内容をチェックする体制をとっています。相続税の申告書に税理士が内容を保証する書面を添付する「書面添付制度」にも、基本報酬の範囲内で対応しています。(書面添付を別料金にしている事務所もあるため、この点は比較のポイントになります)
料金体系
| 遺産総額 | 基本報酬(税込) |
|---|---|
| 1億円まで | 22万円〜60.5万円 |
| 1億円〜1億5,000万円 | 77万円 |
| 1億5,000万円〜2億円 | 99万円 |
| 2億円〜3億円 | 126.5万〜154万円 |
| 3億円〜5億円 | 187万〜220万円 |
| 土地の加算報酬 | 1利用区分につき6.6万円 |
| 非上場株式の加算報酬 | 1社につき16.5万円〜 |
遺産総額に応じた基本報酬に、土地や非上場株式がある場合の加算報酬が上乗せされる料金体系です。5億円を超える場合は別途見積もりとなります。
税理士法人レガシィ

- 累計の相続案件実績32,000件超、申告件数20,801件
- 相続に関する著書108冊、専門家歴20年超
- 初回面談は無料、土日祝も電話相談を受付
税理士法人レガシィは、相続専門を掲げる税理士法人です。公式サイトでは累計の相続案件実績32,000件超、うち申告件数20,801件と公表しています。相続に関する著書は108冊にのぼり、顧客満足度95%、税務調査については99%入られていないとしています。
相続税の申告だけでなく、払い過ぎた相続税を取り戻す還付手続きにも対応しており、還付成功率98%、平均2,515万円という実績を掲げています。電話相談は平日だけでなく土日祝も9時から17時30分まで受け付けているため、平日に動きにくい相続人でも相談しやすい体制です。
料金体系
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 相続税申告の基本報酬 | 45万円〜(遺産額により変動) |
| 加算の要素 | 相続人の数、土地の利用単位の数、非上場株式の保有数 |
| 初回面談 | 無料 |
基本報酬は遺産額に応じて変動し、相続人の人数や土地の数によって加算されます(参照元 税理士法人レガシィ 料金)。
ランドマーク税理士法人

参照元 https://www.zeirisi.co.jp/
- 相続税申告件数11,230件、土地評価は累計50,000件超
- 国税OBが14名在籍、税務調査率は累計1%未満
- 初回60〜90分の無料相談に対応
ランドマーク税理士法人は、首都圏を中心に16拠点を展開する相続専門の税理士法人です。2026年6月時点で相続税申告件数11,230件、累計の土地評価件数は50,000件を超えると公表しています。国税OB14名が在籍し、税務調査率は累計1%未満としています。
土地評価の実績が豊富なため、自宅や賃貸物件など不動産の割合が大きい相続に向いています。司法書士・弁護士・不動産鑑定士との連携体制があり、名義変更や遺産分割でもめている場合もワンストップで進めやすい点が特徴です。(申告期限が迫っている場合の「最短1週間のスピード申告」にも対応しています)
料金体系
| プラン | 内容 |
|---|---|
| 安心プラン | 16.5万円〜 |
| 納税額0円プラン | 特例適用で納税が生じないケース向け |
| 不動産バリュープラン | 土地の評価に重点を置くプラン |
| 初回相談 | 60〜90分無料 |
遺産の内容に応じて複数のプランが用意されています。実際の報酬は財産構成によって変わるため、無料相談で見積もりを確認してください。
税理士法人トゥモローズ

- 年間300件超の相続案件、売上の9割以上が相続
- 税務調査率0.5%未満、書面添付は100%実施
- 基本報酬15万円からで小規模な相続にも対応
税理士法人トゥモローズは、東京・新宿・横浜に拠点を置く相続専門の税理士法人です。年間300件以上、税理士1人あたり40件以上の相続案件を扱っており、売上の9割以上が相続関連としています。
特徴的なのは税務調査率0.5%未満という数字と、全件に書面添付を実施している点です。書面添付制度は、税理士が申告内容を確認したことを保証する書面を添付する制度で、税務署から見て申告の信頼性が高まります。平日夜間や土日の面談にも対応しています。
料金体系
| 項目 | 料金 |
|---|---|
| 基本報酬 | 15万円〜(遺産総額4,000万円以下) |
| 土地の加算 | 1箇所につき5万円 |
| 非上場株式の加算 | 1社につき10万円〜 |
| 相続人が複数の場合 | 基本報酬の10%×(相続人数-1) |
| 初回面談 | 無料 |
遺産総額4,000万円以下なら基本報酬15万円からと、比較的小規模な相続にも対応しやすい料金設定です。支払いは契約時に半金、完了時に残金という形をとっています。
岡野相続税理士法人

参照元 https://www.souzoku-zei.jp/
- 相続税還付の成功件数は累計3,049件、還付総額200億円
- 土地評価に特化、2025年の土地評価実績1,342件
- 売上の99%以上が相続税関連の専門事務所
岡野相続税理士法人は、相続税の還付、つまり払い過ぎた相続税を取り戻す手続きに強みを持つ税理士法人です。2026年7月末時点で還付成功件数は累計3,049件、還付総額は200億円、1件あたりの平均還付額は657万円と公表しています。
還付が生じる主な原因は土地の評価です。すでに他の税理士に依頼して申告を終えた人でも、法定申告期限から5年以内であれば見直しの余地があります。相続専門スタッフ57名体制で、売上の99%以上が相続税関連という専門特化型の事務所です。
料金体系
| プラン | 料金(税込) |
|---|---|
| スタンダードプラン | 42.9万円〜 |
| フルサポートプラン | 70.4万円〜 |
| 税務調査対応 | 無料(ホームページからの依頼限定) |
遺産総額に応じた段階的な料金設定で、税務調査への対応を無料としている点が他社と異なります。
相続税の税理士報酬は遺産総額の0.5〜1%が目安
相続税申告の報酬は、遺産総額に対する割合で決まるのが業界の慣行です。相場は遺産総額の0.5〜1%で、遺産1億円なら50万〜100万円が目安になります。
報酬は「基本報酬+加算報酬」で決まる
ほとんどの事務所が、遺産総額に応じた基本報酬に、手間のかかる要素を加算報酬として上乗せする方式をとっています。加算の対象になりやすいのは次の項目です。
- 土地の数(1利用区分あたり5万〜7万円程度)
- 非上場株式の保有(1社あたり10万〜20万円程度)
- 相続人の人数(1人増えるごとに基本報酬の10%程度)
- 申告期限までの日数が短い場合の特急対応
- 書面添付制度の利用(基本報酬に含む事務所と別料金の事務所がある)
見積もりを比較するときは、基本報酬だけを並べても意味がありません。自分の相続で加算対象がいくつあるかを踏まえた総額で比べる必要があります。(土地が3箇所ある相続で、基本報酬の安さだけで選んだ結果、総額では他社より高くなったという話は珍しくありません)
複数の事務所に見積もりを取ると総額の差が見える
相続税の申告報酬は事務所ごとの差が大きく、同じ財産構成でも2倍近い開きが出ることがあります。財産の一覧をまとめたうえで、2〜3社に同じ条件で見積もりを依頼するのが確実です。
どの事務所に声をかければよいか見当がつかない場合は、税理士紹介サービスを使うと、相続の実績がある事務所を無料で紹介してもらえます。報酬の詳しい決まり方は相続税申告を税理士に依頼する費用の相場と報酬の決まり方にまとめています。
相続専門を見極める4つの数字
「相続に強い」と掲げる事務所は数多くありますが、その根拠は数字で確認できます。面談時に次の4点を質問すれば、専門性の実態がわかります。
年間の相続税申告件数を聞く
最も端的な指標が、事務所全体の年間申告件数と、担当者個人が年間何件を扱っているかです。事務所全体で数千件でも、担当する税理士が新人で年間数件しか経験がないケースもあります。担当者ベースで確認してください。
税務調査率を公表しているか確認する
相続税は、他の税目に比べて税務調査が入りやすい税目です。専門事務所の多くは税務調査率を1%前後と公表しています。数字を公表していない事務所が悪いわけではありませんが、公表している事務所は申告の精度に自信があると読み取れます。
書面添付制度に対応しているか確認する
書面添付制度は、申告書に税理士が「どの資料をどう検討したか」を記載した書面を添付する制度です。添付があると、税務署はいきなり調査に入るのではなく、まず税理士に意見を聞く手続きを経ることになります。対応の有無と、追加料金がかかるかどうかを確認してください。
土地の評価をどこまで自社で行うか確認する
不動産が中心の相続では、土地評価の経験がそのまま税額に直結します。現地調査を行うか、役所調査をどこまでするか、評価を外部に依頼していないかを聞いておくと、実力の差が見えます。相続に強い税理士の選び方は相続に強い税理士の選び方と「相続専門」を見極めるポイントでも解説しています。
依頼は相続開始から3か月以内に決めるのが安全
相続税の申告と納税の期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。10か月あれば余裕があるように見えますが、実際にはかなりタイトです。
財産調査と遺産分割協議に時間がかかる
申告書の作成そのものより、預貯金の残高証明の取得、不動産の調査、相続人の確定といった前段階に時間がかかります。相続人が複数いて遺産分割の話し合いが必要な場合、そこで数か月止まることも珍しくありません。
目安として、相続開始から3か月以内に税理士を決めておくと、財産調査に十分な時間を確保できます。期限まで残り3か月を切ると、特急料金として報酬が2〜3割増になる事務所もあります。
相続放棄を検討するなら3か月が期限になる
借金のほうが多いなど、相続放棄を検討する場合の期限は相続開始を知った日から3か月です。この判断には財産の全体像を把握する必要があるため、早い段階で専門家に相談する意味は大きくなります。自力での申告を検討している場合は、相続税の申告は自分でできる?自力申告の難易度と税理士に頼む判断基準も参考にしてください。
相続税の依頼前に確認しておきたい実務ポイント
契約前に確認しておくと、後のトラブルを避けられる項目があります。
誰が担当するのかを確認する
大手の税理士法人では、面談に出てきた税理士と実際の担当者が別人であることがあります。担当者の相続税申告の経験年数と件数は、契約前に聞いておくべきです。
税務調査になった場合の費用を確認する
申告後に税務調査が入った場合、立会い費用が別途発生するのが一般的です。日当3万〜8万円程度が相場ですが、事務所によっては申告を担当した案件の調査対応を無料としているところもあります。契約時に取り決めを確認してください。
相続税申告は資料集めに2〜3か月かかる
税理士に依頼した場合、申告までの作業は次のように進みます。全体像を把握しておくと、どこで時間がかかるかが見えます。
財産の全体像を把握するまでが最も時間を要する
| 段階 | 主な作業 | 期間の目安 |
|---|---|---|
| 初回相談・契約 | 財産のおおまかな確認、見積もり、契約 | 1〜2週間 |
| 資料収集 | 戸籍謄本、残高証明書、不動産の登記事項証明書などの取得 | 1〜2か月 |
| 財産評価 | 土地の評価、非上場株式の評価、財産目録の作成 | 3〜4週間 |
| 遺産分割協議 | 相続人間での分け方の決定、遺産分割協議書の作成 | 数週間〜数か月 |
| 申告書作成・提出 | 申告書の作成、内容確認、提出と納税 | 2〜3週間 |
期間が読めないのは遺産分割協議です。相続人の意見がまとまらないと、ここで数か月止まります。分割が決まらないまま期限を迎える場合は、いったん法定相続分で申告し、後から修正する形をとることになります。
亡くなった方の預金は生前分まで確認される
相続税の申告では、亡くなった時点の残高だけでなく、過去数年分の入出金履歴も確認するのが実務です。多額の出金があれば、その使い道や贈与の有無が問題になります。
税務署は職権で過去の取引履歴を調べられるため、申告時に把握していなかった資金移動が後から問題になるケースがあります。相続人が把握していない財産や過去の贈与がないかを含めて確認するのが、相続に慣れた税理士の仕事です。(名義は子どもでも実質は親の預金という「名義預金」は、調査で最も指摘される項目です)
相続では税理士以外の専門家が必要になる場面がある
相続の手続きは相続税の申告だけではありません。財産の内容によっては他の専門家が必要になります。
不動産があれば相続登記が必要になる
不動産を相続した場合、名義変更(相続登記)の手続きが必要です。令和6年4月1日から相続登記の申請が義務化されており、放置できません(出典 法務省 所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し)。
登記は司法書士の業務ですが、相続専門の税理士事務所は司法書士と提携していることが多く、まとめて依頼できます。窓口が一本化されると、同じ戸籍謄本を何度も取り直す手間が省けます。
相続人同士でもめている場合は弁護士の領域になる
遺産の分け方で争いがある場合、税理士は交渉の代理人にはなれません。相続人の一方の代理として交渉できるのは弁護士だけです。話し合いがまとまらない段階であれば、弁護士と連携している事務所を選ぶ必要があります。
税理士は中立の立場で財産評価と申告を担当し、分割の交渉は弁護士が担うという役割分担になります。相続税の申告期限は待ってくれないため、争いが長引きそうな場合ほど早めに専門家を入れるべきです。
本記事に掲載した各事務所の実績・料金は、2026年8月時点で各社の公式サイトに掲載されている情報にもとづいています。最新の内容は各事務所の公式サイトでご確認ください。
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最後に
相続税の申告は、依頼する税理士によって納税額と手間が変わる分野です。判断の軸は、年間の申告件数、税務調査率、書面添付への対応、土地評価の体制という4つの数字にあります。報酬は遺産総額の0.5〜1%が目安ですが、加算報酬まで含めた総額で比較しないと本当の費用はわかりません。
相続には申告期限という明確な締切があります。財産の一覧をおおまかにまとめた段階で、2〜3社に見積もりを依頼して比較するのが現実的な進め方です。どこに相談すべきか迷っている方は、税理士ドットコムの無料紹介サービスを使えば、相続の実績がある税理士を無料で紹介してもらえます。











